無人チェックインや料金の自動設定のような大きな投資をしなくても、予約の問い合わせへの返信や外国語の案内文なら、ホテル・旅館で今日からAI活用を始められます。
客室20〜100室ほどの旅館・ビジネスホテルなら、まず汎用の生成AIで返信の下書きを作り、空室・料金・アレルギーの判断はスタッフが持つ形から始めるのが現実的です。予約システムとつなぐのは、その形で直す量が減ってからで間に合います。
想定している読者は、予約サイトごとに届くメールや外国語の問い合わせを、少人数のフロントで返している旅館・ホテルの経営者・支配人の方です。
予約の問い合わせ、外国語の一次返信、予約サイトに載せるプラン紹介文、館内案内の翻訳の4つについて、施設名などを書き換えて使える指示文を載せます。あわせて、宿泊者名簿の情報をAIに入れない理由と、予約システムとつなぐ範囲の決め方を説明します。
記事内の施設情報シート・用語集・問い合わせの例は、説明のために作った架空の設計例です。
指示文は、弊社が架空の施設情報とメールを1つの生成AIに入れて動かし、出力で見つかった問題を直しました。試したのは、4本とも架空の入力で2回ずつだけです。その結果は、弊社が宿泊施設で測った導入効果や、特定のAI製品の性能を示すものではありません。
時間の短縮を引用している箇所は、観光庁が公開した実証の記録です。
この記事で分かること
- 空室があるか、料金をいくらにするか、食事を変えられるかは、予約システムと調理場を見ているスタッフにしか決められません
- AIに返信を書かせる前に、施設の答えを一枚の表にまとめます
- AIに文章を作らせるときも、名簿の情報は入れない前提で進めます
ホテル・旅館でAIに任せる仕事と、
スタッフが決めること
最初に、フロントと予約担当の仕事を、AIに渡す作業とスタッフが持つ判断に分けます。
業務ごとの分け方
生成AIが手伝えるのは、施設が決めた情報をもとに文章を書く・訳す・整える作業です。空室があるか、料金をいくらにするか、食事を変えられるかは、予約システムと調理場を見ているスタッフにしか決められません。
| 業務 | AIに任せる作業 | スタッフが決めること |
| 予約の問い合わせへの返信 | 施設情報をもとにした返信の下書き、答えられない点の書き出し | 空室・料金・キャンセル料、送迎や食事の変更の可否 |
| 外国語の問い合わせ | 日本語への翻訳、用件の整理、受け取りを伝える短い返信の下書き | 用件への答え。答えの返信は、その言語が分かる人が確かめてから送る |
| 予約サイトのプラン紹介文 | プランの条件表から紹介文を書き分ける | 条件表にない特典や誇張が入っていないか |
| 館内案内の翻訳 | 決めた用語集に沿った多言語の案内文 | 時間・場所・料金が現状と合っているか |
| 宿泊者名簿 | 任せない(名簿の情報はAIに入れない) | 名簿の記載・本人確認・保存 |
口コミへの返信も文章の仕事ですが、低評価への対応など判断の種類が違うため、Google口コミの返信を生成AIで作る方法で別に説明しています。
観光庁の実証で、
旅館が試したこと
観光庁は令和6年度に、全国6地域で生成AIの調査事業を行いました。宿泊施設などが試した使い方と結果は、手引書と一覧表で公開されています(2025年5月20日更新、2026年10月28日に原文を確認)。
このうち、宿泊施設の文章業務に近いものを抜き出すと次のとおりです。
| 試した施設と業務 | 試した内容 | 一覧表に記録された結果 |
| 箱根の旅館・予約確認メール | 予約サイトや自社サイトからのメールをもとに、テンプレートを選んで返信の文案を作る(約3か月・利用者2名) | 1通あたり7分から3分に短縮 |
| 箱根の旅館・料理メニューの翻訳 | 日本語の料理メニューを、訪日客に伝わる表現で多言語にする(約1か月・利用者2名) | 1回20分以上から7分に短縮 |
| 北海道の旅館・チェックイン時の案内 | 夕食時間や連泊時の清掃の要否を、多言語の案内文で伝える(約1週間・利用者1名) | 1件5分ほどから2分ほどに短縮 |
出典は観光庁の「参考2:生成AI活用ユースケースプロンプト等一覧」です。どれも少人数・短期間の試行で、数字は一覧表の実証結果の欄と、現場の担当者・責任者のコメントに記録されたものです。同じ時間の短縮が、どの施設でも出ると読み取れる資料ではありません。
それでも、三つとも「文章を一から書く・訳す」作業を対象にしている点は参考になります。予約の判断や設備の操作には手を付けず、スタッフが毎日書いている文章から試しています。
文章以外のAI活用を検討する目安
ホテルのAI活用として、料金の自動設定や無人チェックインもよく紹介されます。客室20〜100室の施設なら、次のような状況が出てきたときに検討の対象になります。
| 使い道 | 検討を始める状況 | 先に確かめること |
| 料金の自動設定・需要予測 | 複数の予約サイトの料金を、空室の動きを見ながら毎日手で変えている | 今のサイトコントローラーが外部から料金を受け取れるか、最終的な料金を誰が承認するか |
| 多言語のチャットボット | 駐車場・チェックイン時刻・道順など、施設情報シートで答えられる質問が外国語で繰り返し届く | チャットボットに答えさせる用件と、スタッフに回す用件の線引き |
| 非対面のチェックイン | 夜間や早朝の到着が多く、フロントに人を置き続けるのが難しい | 本人確認と、日本国内に住所がない外国人宿泊者の旅券の写しの保存を、その方法で行えるか |
| 清掃・客室の管理 | チェックアウトと清掃の状況を、毎朝紙や口頭で伝え合っている | AIより先に、客室の状態をスタッフ全員が同じ画面で見られるか |
どれも、予約システムや設備との連携が前提になる使い道です。この記事で扱う文章の仕事で作る施設情報シートは、後でチャットボットを入れるときにも答えの元として使えます。チャットボットと既製のFAQ・連携開発の比べ方は、問い合わせ対応のAI活用で説明しています。

① 予約の問い合わせ
メールに返信する
予約サイトや自社サイトから届く「駐車場はありますか」「何時までに着けばいいですか」といった問い合わせから始めます。
先に「施設情報シート」を作る
AIに返信を書かせる前に、施設の答えを一枚の表にまとめます。AIは表にない情報を、それらしく補って書くことがあるためです。答えの元になる表を先に作れば、補った箇所を見つけやすくなります。
次の表は、客室30室ほどの温泉旅館を想定した架空の例です。
| 項目 | 施設の答え(架空) | 最終確認日 |
| チェックイン | 15:00〜19:00。19時以降の到着は当日中に電話で連絡 | 10月1日 |
| チェックアウト | 10:00 | 10月1日 |
| 夕食 | 食事処で18:00または18:30開始。部屋食はなし | 10月1日 |
| 朝食 | 7:30〜9:00(最終入場8:30) | 10月1日 |
| 駐車場 | 敷地内に15台・無料・予約不要 | 10月1日 |
| 送迎 | 最寄り駅から14:30〜17:30。前日までに電話で予約 | 10月1日 |
| 大浴場 | 15:00〜24:00、6:00〜9:00 | 10月1日 |
| 貸切風呂 | 確認中(11月から料金を変える予定) | 10月8日 |
| アレルギー・食事の変更 | AIでは答えない。料理長が確認して返信 | 10月1日 |
ビジネスホテルなら、温泉旅館の項目の代わりに、よく聞かれる次のような項目を足します。
| 項目 | 施設の答え(架空) |
| チェックイン前の荷物預かり | 当日の朝7時から無料で預かる。貴重品は預からない |
| 領収書の宛名・法人請求 | 宛名はチェックイン時にフロントで記入。後日まとめての請求は、契約のある法人だけ |
| 駐車場 | 提携の立体駐車場。高さ2.0mまで・先着順・予約不可 |
| 朝食 | 1階で6:30〜9:30。当日の朝にフロントで申し込める |
| 連泊時の清掃 | 清掃なしのプランはタオル交換だけ。希望すれば清掃も受ける |
最終確認日の列を作っておくと、料金や営業時間を変えたときに、古い答えが返信に残る事故を防げます。「確認中」と書いた項目は、AIの下書きでも確認中のまま残させてください。
フロントで毎日聞かれていることを書き出す作業は、新人向けの手順書づくりにも使えます。書き出した答えから手順書を作る方法は、生成AIでマニュアルを作る方法で紹介しています。
返信の下書きを作る指示文
お客様のメールを貼り付ける前に、二つ確かめます。一つは、施設として使うと決めたAIサービスかどうかで、スタッフ個人のアカウントには貼り付けません。
もう一つは、メールから氏名・予約番号・電話番号・メールアドレス、カード番号や旅券番号、アレルギーや持病など体の状態の記載を消したかどうかです。
AIに「書き写さないで」と指示しても、貼り付けた時点で、その情報はAIサービスに送られています。消すのは必ず貼り付ける前です。消した用件は、スタッフがお客様に直接確かめます。
準備ができたら、次の指示文に施設情報シートと、個人の情報を消したメールを貼り付けます。施設名や文字数は自館に合わせて書き換えてください。
あなたは【施設名】の予約担当です。
下の「お客様からのメール」に返信する下書きを、日本語で作ってください。
使ってよい情報は、下の「施設情報シート」に書かれた内容だけです。
守ること:
1. 施設情報シートにない内容は推測で書かず、
「確認のうえ、あらためてご連絡いたします」と書いてください。
2. 空室・料金・キャンセル料は担当者が予約システムで確かめるため、
聞かれた文の中に、数字を書かずに【空室・料金:担当者が記入】と空けてください。
3. アレルギーや食事の変更の可否は書かず、
「担当者に確認のうえご連絡いたします」としてください。
4. 施設情報シートで「確認中」とある項目は、確認中として扱ってください。
5. お客様の名前は【お客様名】のまま残してください。
6. 丁寧な敬語で、400字以内にしてください。
7. 消し忘れた名前・連絡先・番号や、病気・アレルギーなど体の状態の記載があったら、
下書きに書き写さず、(2)に「消し忘れあり・担当者が直接確認」と書いてください。
出力の形:
(1)返信の下書き
(2)施設情報シートだけでは答えられなかった点(箇条書き)
(3)担当者が予約システムで確かめる点(箇条書き)
施設情報シート:
(ここに表を貼り付ける)
お客様からのメール:
(ここに本文を貼り付ける。貼る前に全文を読み、氏名・電話番号・メールアドレス・予約番号・
旅券番号・カード番号と、アレルギーや持病など体の状態の記載を消す。
消した用件は、スタッフがお客様に直接確認する)
守ること7は、消し忘れに気付くための行です。情報はすでにAIサービスに送られているので、消し忘れが見つかったら、施設で決めた手順で責任者に伝えます。
架空の施設情報とメールで最初に試したとき、守ること2は「数字を書かずに空けてください」だけでした。すると【空室・料金:担当者が記入】が、貸切風呂の料金と予約方法を確認すると伝える文の後ろに、単独で置かれました。
空欄の位置がずれると、担当者が別の文に数字を書き込むおそれがあるため、「聞かれた文の中に」と場所を指定しています。試したのは一つの生成AIで2回だけなので、使うサービスでも同じ架空のメールで一度動かしてから使い始めてください。
下書きで確かめる3つのこと
下書きが出たら、送る前に次の3点をスタッフが確かめます。
一つ目は、施設情報シートにない言葉が入っていないかです。「ご到着が遅れても問題ございません」「お部屋でお食事いただけます」のように、表にない約束が書かれていたら消します。
二つ目は、出力の(2)と(3)に挙がった点です。空室と料金は、必ず予約システムの画面で確かめてから書き込みます。予約サイトごとに料金や在庫の設定が違う施設では、どの予約サイトから届いたメールかも合わせて確かめます。
三つ目は、食事とアレルギーに関わる文です。観光庁の一覧表には、予約確認メールを試した箱根の旅館の担当者のコメントが記録されています。はちみつのアレルギーがある方に「はちみつのお出汁は召し上がれますか」と聞こうとする出力が出た、という内容です。
食べられるかどうかに関わる文は、AIの下書きを使わず、料理長など食事の責任者の確認を通します。
② 外国語の問い合わせに
一次返信する
英語・中国語・韓国語などで届いた問い合わせに、最初の返信を早く返すための使い方です。
日本語に訳してから
用件を確かめる
外国語のメールは、いきなり返信を書かせず、まず日本語に訳して用件を書き出させます。スタッフが日本語で用件を読み、誰が答えるかを先に判断できるからです。
「到着が22時になる」「ベジタリアン向けの食事はあるか」のように、施設の判断が要る用件はよく届きます。最初の返信で伝えるのは、問い合わせを受け取ったことと、いつまでに答えるかの二つに絞ります。
外国語が読めないスタッフが送るのは、この受け取りの返信までです。到着時刻・食事・料金などへの答えは、その言語が分かる人が確かめてから送ります。
受け取りの返信を作る指示文
個人の情報を消したメッセージと、施設で使う言葉の訳を決めた用語集を貼り付けます。返信の期限は、答えを確かめる担当者と相談して書き込みます。
あなたは【施設名】のフロント担当です。
下の「お客様からのメッセージ」は外国語で届いています。
これから作るのは、受け取ったことと、いつまでに答えるかを伝える最初の返信です。
手順:
1. メッセージを日本語に訳し、お客様の用件を箇条書きにしてください。
2. お客様と同じ言語で、次の3つだけを書いた短い返信の下書きを作ってください。
・メッセージへのお礼と、受け取ったこと
・確認する用件の名前(答えは書かない)
・下の「返信の期限」までに、改めて連絡すること
3. 返信の下書きを日本語に訳し直した文を、下書きの下に並べてください。
守ること:
1. 到着時刻・食事・空室・料金・送迎・アレルギーなど、用件への答えは書かないでください。
施設で答えが決まっている用件でも、この返信では答えないでください。
2. 時刻は「18:30」のような24時間表記で書き、午前・午後の表記にしないでください。
3. 日付は、月と日を取り違えない書き方にしてください
(英語なら「November 12」のように月を英字で書く)。
4. 用語集にある言葉は、用語集の訳を使ってください。
5. 消し忘れた名前・連絡先・番号や、病気・アレルギーなど体の状態の記載があったら、
訳にも下書きにも書き写さず、(4)に「消し忘れあり」と書いてください。
出力の形:
(1)メッセージの日本語訳と、用件の箇条書き
(2)返信の下書き(お客様の言語)
(3)返信の下書きを日本語に訳し直した文
(4)担当者に回す用件と、消し忘れの有無
返信の期限:【例:11月10日 18:00】
用語集:
(ここに用語集を貼り付ける)
お客様からのメッセージ:
(ここに本文を貼り付ける。貼る前に全文を読み、氏名・連絡先・予約番号・
旅券番号・カード番号と、アレルギーや持病など体の状態の記載を消す。
消した用件は、スタッフがお客様に直接確認する)
送る前に、(3)の日本語が受け取りと期限の連絡だけになっているかを確かめます。答えのような文が混ざっていたら、その下書きは使いません。
答えの返信は、
その言語が分かる人が確かめる
答えの返信は、日本語に戻した文だけでは確かめきれません。日本語に戻した文が正しく見えても、外国語の文に何と書かれているかは分からないからです。
弊社が架空の英語の問い合わせで試したとき、施設情報シートの「15:00〜19:00」は、英語の下書きで「3:00 p.m. to 7:00 p.m.」に書き換わりました。一方、日本語に戻した文には「15:00から19:00」と元の書き方で出ていました。
日本語に戻した文だけを読むスタッフは、外国語の文の書き方が変わったことに気付けません。今回は正しい言い換えでしたが、午前と午後を取り違えた場合も、日本語に戻した文が正しく見えるおそれがあります。
そのため、指示文では時刻を24時間表記に、日付を月の名前で書く形に固定しました。こうしておけば、外国語が読めないスタッフでも「18:30」「November 12」を施設情報シートと照らせます。ただし、照らせるのは数字と日付だけで、条件や否定の取り違えまでは分かりません。
観光庁の手引書「観光地・観光産業の生成AIの適切な活用に向けて」(令和7年2月)でも、熱海エリアの実証で、多言語にした文を日本語に戻して確かめる方法が紹介されています。この実証では、日本語に戻す確認に加えて、母語話者が誤訳・自然さ・矛盾・文化的な違和感などの項目で訳文を評価していました。
答えの返信を確かめる人は、言語ごとに先に決めておいてください。英語なら読めるスタッフ、中国語や韓国語は施設で頼める翻訳の窓口、というように決めておけば、受け取りの返信に書く期限も決めやすくなります。
予約サイトの掲載文のように長く残る文章も、その言語が分かる人に一度読んでもらいます。

③ 予約サイトのプラン紹介文と
館内案内を書く
OTA(楽天トラベルやじゃらんなどのオンライン予約サイト)に載せるプラン紹介文と、客室や館内に置く案内文の作り方です。
プラン紹介文の指示文
紹介文は、プランの条件表から書かせます。条件表には、プラン名、対象期間、食事の内容、含まれる特典、含まれないもの、対象の客室を書き出します。
あなたは【施設名】の宿泊プランの紹介文を書く担当です。
下の「プラン条件表」だけを使って、予約サイトに載せる紹介文を作ってください。
守ること:
1. 条件表にない料理・設備・特典を足さないでください。
2. 「最高」「日本一」「必ず満足」など、施設が根拠を示せない言葉は使わないでください。
3. 金額は書かないでください(料金は予約サイトの料金欄で表示します)。
4. 条件表の「含まれないもの」は、紹介文の最後に必ず書いてください。
5. 文の長さは、次の上限に合わせてください:
見出し【◯◯字以内】/紹介文【◯◯字以内】
出力の形:
(1)見出し
(2)紹介文
(3)含まれるもの(箇条書き)
(4)含まれないもの(箇条書き)
(5)条件表だけでは書けなかった点
プラン条件表:
(ここに貼り付ける)
見出しと紹介文の文字数の上限は、予約サイトごとに管理画面で確かめて書き換えてください。同じ条件表から予約サイトごとに書き分けると、サイトによって特典の書き方がばらつきにくくなります。
守ること2と4は、景品表示法を意識したものです。消費者庁は、品質を実際より優れていると示す表示(優良誤認)や、取引の条件を実際より有利に見せる表示(有利誤認)は、わざとでなく誤って表示した場合も規制の対象になると説明しています(2026年10月28日に原文を確認)。
根拠のない「最高」や、含まれないものの書き漏らしは、こうした表示に近づきます。
架空のプラン条件表で試した出力では、条件表にない料理や特典は足されませんでした。それでも、AIの書き間違いや、各予約サイトの今の設定とのずれまでは指示文で防げません。掲載する前に、料理・客室・特典・対象期間・含まれないものを、元の条件表と各予約サイトの表示に一つずつ照らします。
館内案内の翻訳は、
用語集を先に決める
館内案内を多言語にするときは、施設の中で使う言葉の訳を先に一つに決めます。同じ「大浴場」が、案内ごとに違う英語で書かれていると、お客様が別の場所だと思うことがあります。
次の表は、用語集の架空の例です。
| 施設での呼び方 | 英語での表記(架空例) | 補足して伝えること |
| 大浴場 | Large public bath | 男女別であること、利用時間 |
| 貸切風呂 | Private bath | 予約の方法と利用できる時間 |
| 食事処 | Dining room | 場所(何階か)と開始時間 |
| 浴衣 | Yukata (cotton robe) | 館内で着てよい範囲 |
| 布団敷き | Futon setup | スタッフが入室する時間 |
中国語や韓国語の訳も、同じ表に列を足して管理します。
英語の列だけの用語集で館内案内を三つの言語に訳させたところ、AIは「貸切風呂」の中国語と韓国語の訳を、その場で作って使いました。
韓国語の訳は、1回目が「대여탕」、指示文を直して案内文を1行足した2回目が「전세탕」で、同じ言葉の訳が一つに定まりませんでした。どちらがその国で普通に通じる言い方かは、その言語が分かる人でないと判断できません。訳す言語の列は、用語集に先に作っておきます。
用語集は、館内案内・外国語の返信・プラン紹介文のすべてで同じものを使います。観光庁の熱海エリアの実証でも、固有名詞の訳をリストにまとめておく必要があるかを評価の観点に入れていました。
館内案内を訳す指示文
日本語の案内文と用語集を一緒に貼り付けます。訳す言語は、自館に多いお客様に合わせて書き換えてください。
あなたは【施設名】の館内案内を訳す担当です。
下の「日本語の案内文」を、【英語・中国語(簡体字)・韓国語】に訳してください。
守ること:
1. 用語集にある言葉は、用語集の訳を使ってください。
2. 時刻・料金・階数・場所は、日本語の案内文の値をそのまま使い、
書き換えたり足したりしないでください。
時刻は「18:30」のような24時間表記のまま書き、午前・午後の表記にしないでください。
日付は、月と日を取り違えない書き方にしてください(英語なら「November 12」)。
3. 日本語の案内文にない説明や注意書きを足さないでください。
4. 用語集にない施設の言葉や、用語集にその言語の訳がない言葉が出てきたら、
仮の訳を使い、その言葉を(3)に書き出してください。
出力の形:
(1)言語ごとの訳文
(2)訳文を日本語に訳し直した文(言語ごと)
(3)用語集になかった言葉と、仮に使った訳(言語ごと)
用語集:
(ここに用語集を貼り付ける)
日本語の案内文:
(ここに案内文を貼り付ける。時刻や料金は施設情報シートの最新の値にしておく)
(3)に挙がった言葉は、訳を決めて用語集に足してから、もう一度訳し直します。用語集を育てるほど、言語ごとの呼び方がそろっていきます。
案内文の時間や場所を変えるときは、施設情報シートを直してから作り直すのが基本です。古い案内文を訳し直すより、元の表を直してから全言語を作り直すほうが、言語ごとに情報がずれません。

宿泊者名簿の情報は
AIに入れない
宿泊施設は、予約を受けた時点で個人情報を多く扱います。AIに文章を作らせるときも、名簿の情報は入れない前提で進めます。
名簿に書く項目と、
AIに入れない情報
旅館業法第6条と施行規則第4条の2は、宿泊者名簿に宿泊者の氏名・住所・連絡先を書き、日本国内に住所がない外国人の場合は国籍と旅券番号も書くよう定めています。
名簿は作成の日から3年間保存します(旅館業法と施行規則の条文を、e-Gov法令検索で2026年10月28日に確認)。都道府県知事が必要と認めた項目が加わる場合もあるため、所在地の保健所の案内も確かめてください。
名簿に書くだけでは手続きは終わりません。厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」(令和8年1月20日の一部改正の通知で、2026年10月28日に原文を確認)は、日本国内に住所がない外国人宿泊者について、旅券の呈示を求め、旅券の写しを名簿とともに保存するよう求めています。
本人確認は、対面か、対面と同等とされる条件を満たした機器などで行うよう示されています。
観光庁の手引書の整理では、宿泊者名簿を備える施設は個人情報取扱事業者です。そのため、生成AIに個人情報を含む指示文を入力するときは、プライバシーポリシーなどで決めた利用目的の範囲内かに注意が必要です。
個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)は、さらに踏み込んでいます。本人の同意なく個人データを含む指示文を入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で扱われる場合は、法律に違反する可能性があるという内容です。
入力するなら、提供事業者が機械学習に使わないことなどを十分に確かめるよう求めています。
| 情報 | 汎用の生成AIへの入力 | 代わりにすること |
| 氏名・住所・電話番号・メールアドレス | 入れない | 【お客様名】などに置き換えて下書きを作り、送信時に戻す |
| 旅券番号・パスポートの画像 | 入れない | 旅券の確認と写しの保存は、名簿など施設で決めた保存場所だけで行う |
| クレジットカードの情報 | 入れない | 決済の画面だけで扱う |
| アレルギー・持病・身体の状態 | 入れない | 料理長・担当者が直接確認する |
| 宿泊日・人数・プラン名 | 施設で決めた範囲だけ | 名前と組み合わせず、返信に必要な分だけ使う |
スタッフが個人のアカウントで、お客様のメールをそのまま貼り付ける使い方は避けてください。施設として使うAIサービスと契約を決め、入力の設定や学習への利用の扱いを確かめてから使います。
名前を消してから貼る手順
汎用の生成AIで下書きを作る段階では、メールを貼り付ける前に全文を読み、氏名・連絡先・予約番号を【お客様名】【予約番号】のような記号に置き換えます。
旅券番号・カード番号や、アレルギー・持病など体の状態が書かれた部分は、記号にもせず消してください。その用件は、スタッフがお客様に直接確認します。下書きができたら、送信画面で記号を本来の情報に戻します。
この作業は手間がかかりますが、どの情報をAIに入れないかを全スタッフで同じにするために必要です。名前を置き換えても、宿泊日や同行者の情報が並ぶと誰のことか分かる場合があります。返信に関係しない情報は、最初から貼り付けません。
予約システムと
つなぐ範囲を決める
指示文で下書きを作る形が定着したら、予約システムやメールとつなぐかどうかを判断します。
汎用の生成AIから
始める3つの段階
いきなり予約システムとつなぐ必要はありません。次の3段階で、前の段階の効果を確かめてから進みます。
| 段階 | やること | 次に進む目安 |
| 1. 汎用の生成AIで下書き | 施設情報シートと指示文を貼り付けて、返信や案内文の下書きを作る | 直す箇所が減り、複数のスタッフが同じ指示文で使えている |
| 2. 施設として使い方をそろえる | 施設で契約したAIサービスに、施設情報シート・用語集・指示文を登録し、用件ごとの型をそろえる | 返信の件数が多く、メールとAIの間のコピー貼り付けが負担になっている |
| 3. 予約システム・メールとつなぐ | 届いたメッセージから下書きを作り、スタッフが承認して送り、履歴を残す仕組みにする | 予約システムに連携の方法があり、承認と送信の記録を残せる |
段階2で使うAIサービスは、汎用の生成AIだけとは限りません。PMS(客室・予約・会計を管理する宿泊管理システム)やサイトコントローラー(複数の予約サイトの在庫と料金をまとめて管理する仕組み)に、文章作成や翻訳を助ける機能が入っていれば、それも候補になります。
既製の機能で足りるなら、つなぐための開発は要りません。
予約システムの
提供会社に確かめること
段階3に進むかどうかは、今使っている予約システムで何ができるかで決まります。次の文面を、PMSやサイトコントローラーの提供会社への問い合わせに使えます。
【施設名】の【担当者名】です。
予約の問い合わせへの返信の下書きをAIで作ることを検討しています。
次の点を教えてください。
1. 予約サイト経由のメッセージやメールを、外部の仕組みから読み取る方法
(連携機能やAPIなど)はありますか。
ある場合、申込方法と追加費用を教えてください。
2. 予約データ(宿泊日・人数・プラン名・食事の有無)を、
CSVなどで書き出せますか。書き出せる項目を教えてください。
3. 外部の仕組みから返信を送る方法はありますか。
送った返信は、管理画面の履歴に残りますか。
4. 貴社のシステムに、文章の作成を助ける機能や翻訳の機能はありますか。
5. 連携した場合、宿泊者の情報はどこに保存され、
誰が見られる設定になりますか。
技術的につなげられることと、予約サイトとの契約で認められていることは別の話です。予約サイトのメッセージを外部のAIサービスで扱ってよいか、外部の仕組みから返信してよいかは、PMSやサイトコントローラーの提供会社では答えられないことがあります。
この2点は、使っている予約サイトごとに、施設向けの規約や担当窓口で確かめてください。
1と3の答えが「方法はない」場合、送信や履歴の記録は手作業のままです。通知メールに問い合わせの本文まで載る予約サイトなら、そのメールから下書きを作るところまでは自動にできます。一方、「新着メッセージがあります」としか届かない予約サイトでは、本文を管理画面から写す手間も残ります。
どの形にするかは、今の手間と費用を並べて決めてください。比べる費用の項目は、次のとおりです。
| やり方 | かかる費用 | 残るスタッフの作業 |
| 汎用の生成AIを施設で契約 | 使う人数分の利用料 | メールのコピーと貼り付け、個人の情報を消す作業、送信 |
| PMS・サイトコントローラーの既製の機能 | 機能の追加料金と、対応する予約サイトの範囲 | 機能が対応しない予約サイトの返信、下書きの確認 |
| 予約システムとAIをつなぐ開発 | 開発費、毎月の保守費、AIサービスと連携機能の利用料 | 下書きの確認と承認、つながらない用件の手作業 |
今の返信1通にかかる時間と下書きを直す件数を、これらの費用と並べてから、段階2で施設情報シートと指示文を整えるか、段階3に進むかを決めます。どのやり方でも、スタッフが使うアカウント、AIに入れてよい情報、下書きを承認する人、送る前に照らす項目の四つは、紙一枚の決まりにしておきます。
自動で送らない用件を先に決める
つなぐ段階になっても、すべての返信を自動で送る必要はありません。次の用件はスタッフが判断して返信します。AIに下書きを任せる場合も、スタッフが確かめてから送ります。アレルギーや食事変更への回答は、AIに下書きさせず、調理場で確認した内容をスタッフが書きます。
空室・料金・キャンセル料・返金に関わる返信は、予約システムの設定と食い違うと、そのまま施設の約束になります。アレルギーや食事の変更は、調理場の判断が必要です。到着時刻の変更や送迎の追加は、当日のスタッフの配置に関わります。苦情やトラブルの連絡は、支配人が内容を読んでから返してください。
同じ問い合わせに二人のスタッフが別々に返す事故も、つなぐ段階で起きやすくなります。誰が下書きを承認したか、いつ送ったかを、予約ごとに残せる形にしてから自動化を広げてください。

試して1か月で確かめること
試す前と後で、同じ業務にかかる時間と、AIの下書きを直した箇所を記録します。
観光庁の一覧表でも、予約確認メールは「1通あたり何分」、料理メニューの翻訳は「1回あたり何分」という単位で記録されていました。自館で試すときも、1通の返信を書き終えるまでの時間を、試す前に20通ほど測っておきます。
あわせて、下書きを直した理由を「施設情報シートにない内容が入った」「敬語が不自然」「予約サイトの条件と違った」のように書き留めてください。直す理由が施設情報シートの不足なら表を足し、指示文の不足なら指示文を直します。
時間が短くなっても直す箇所が減らないなら、その業務は今の指示文と表では任せられる段階にありません。どの業務から試すかを迷う場合は、業務棚卸し表で比べる方法で、時間・確認待ち・例外の多さを並べて選べます。
まとめ:文章の仕事から始め、
判断はスタッフに残す
ホテル・旅館のAI活用は、予約の問い合わせ、外国語の一次返信、プラン紹介文、館内案内のように、スタッフが毎日書いている文章から始められます。
最初にやることは、施設情報シートを一枚作り、問い合わせの返信を一つの指示文で試すことです。空室・料金・食事の可否と宿泊者名簿の情報はAIに渡さず、スタッフが持ちます。
予約サイトが増えて返信の往復が減らない、予約システムとAIの間のコピー貼り付けが負担になっている、という段階になったら、つなぎ方を検討する時期です。
まるっとAIでは、今の予約システムとメールの使い方を確認し、既製の機能で足りる部分と、つなぐ必要がある部分を分けて提案します。