保育のAI活用は、見守りの機器だけでなく、月案・連絡帳・おたよりの下書きにも広がっています。
生成AIに任せられるのは下書きと整理までです。子どもの姿を見て書く内容と、保護者に出す前の確認は保育士が持ち、園児の情報をどこまで入力してよいかは、使い始める前に法人で決めておきます。
大分市で行われた取り組みでは、生成AIで月間指導計画の原案を作り、作成時間が「1週間程度」から「30分〜40分程度」になったと、内閣官房のDigi田甲子園で紹介されています。
この記事は、複数の園を運営する保育法人の本部担当の方と園長に向けて書いています。公開されている事例、月案・連絡帳・おたより・安全計画とヒヤリハットの4業務の指示文の例、保育士が必ず直す点、園児の情報をどこまで入力するかを決める入力ルールを、本部から各園へ配れる形で載せます。
文中のメモ・指示文・出力見本は、説明用に作った架空の例です。特定の園の記録ではなく、AI製品で効果を測った結果でもありません。指示文は、法人で使うサービスで試して出力を確かめ、園の様式に合わせて直してから使ってください。
この記事で分かること
- 子どもの名前は書かず、その子だけの出来事のように誰のことか分かる書き方も避けて、クラス全体の姿として書きます
- 指示文を各園へ配る前に、何を入力してよいかを法人として決めます
- 最初の業務は、園児の情報を入れずに作れるおたよりにします
保育のAI活用は
3つの領域に分かれる
まず、保育の現場でAIが使われている場所を3つに分け、すでに使っている保育ICTとの役割を確かめます。
見守りの機器、保育ICT、
文章を作る生成AI
保育のAI活用には、午睡中の体の向きを見守るセンサーやAIカメラ、写真を自動で分類する機能のように、製品に組み込まれたAIもあります。こうした機器は選んで導入するものなので、費用と補助の確認から始まります。
これに対して、ChatGPT・Gemini・Claudeのような汎用の生成AIは、月案やおたよりの下書きのように文章を作る事務に使えます。同じ「保育のAI活用」でも、最初にやることは領域ごとに違います。この記事では、主に③の汎用の生成AIを書類の仕事に使う方法を説明します。見守りの機器を選ぶときの比べ方は扱いません。
| 領域 | 主な使われ方 | 最初にやること |
| ① 見守り・写真管理などの機器 | 午睡中の見守り、写真の分類 | 費用と、市区町村の補助の対象になるかを確かめる |
| ② 保育ICT(業務システム) | 計画・記録、保護者との連絡、登降園管理、キャッシュレス決済 | いま使っているシステムに、文章作成を補助する機能があるかを確かめる |
| ③ 汎用の生成AI | 月案・連絡帳・おたよりの下書き、ヒヤリハット報告の整理 | 法人で使うサービスと、入力してよい情報を決める |
保育ICTで足りる範囲と、
生成AIで補う範囲
こども家庭庁は、保育に関する計画・記録、保護者との連絡、こどもの登降園管理等の業務、実費徴収等のキャッシュレス決済の4つを保育ICTの機能として挙げ、導入を進めています(保育DXの推進による業務改善、令和8年3月版)。
保育ICTを入れると、連絡帳を紙からアプリに移し、登降園の時刻を記録し、月案を様式に入力して共有できます。ただ、様式に何を書くかを考えて文章にする時間は、システムを入れても残ります。生成AIが手伝えるのは、この文章にする部分です。
使っている保育ICTに、文章の下書きや言い換えを手伝う機能がすでに付いている場合もあります。別のAIサービスを契約する前に、提供会社の案内や管理画面で、今のシステムにある機能を確かめてください。
ただし、保育ICTに付いたAI機能でも、入力した内容が外部のAI事業者に送られるか、どこに保存されるか、学習に使われるかは、製品と契約によって違います。今のシステムの機能を使う場合も、提供会社にデータの送り先と契約条件を確かめてから、入力してよい情報を決めます。
費用の面では、公定価格の保育ICT推進加算が関わります。この加算は、上の4つの機能を持つICTを業務で使い、施設の中にICT活用の責任者を置いていることなどが要件です。
こども家庭庁の公定価格に関するFAQ(第32版、令和8年7月24日時点版)は、4つの機能のいずれか1つでも、保育所等業務効率化推進事業などの国庫補助金で導入した年度は、この加算の対象外になるとしています(No.343)。同じ回答は、市区町村が独自に出す補助で導入した場合は、加算の対象として差し支えないとしています。
汎用の生成AIは、この4つの機能として挙げられていません。生成AIを単独で契約した費用が補助や加算の対象になるかは、この記事で確認した資料からは分かりません。保育ICTの入れ替えと同じ年度に生成AIを契約する場合も含めて、契約の前に市区町村へ確かめてください。
| 業務 | 保育ICTが担う部分 | 生成AIが手伝う部分 | 保育士・園長が決めること |
| 月案・週案 | 様式への入力、保存、園内での共有 | 前月の振り返りから、ねらい・内容・援助の下書きを作る | クラスの子どもの姿に合っているか、ねらいの最終決定 |
| 連絡帳 | 保護者への送信、既読の確認 | 保育士のメモを読みやすい文に整える | どの場面を書くか、体調やけがの伝え方 |
| おたより・お知らせ | 保護者への一斉配信 | 行事のメモから文面と持ち物の一覧を作る | 日付・時刻・持ち物が正しいか |
| 安全計画・ヒヤリハット | 報告の保存(機能がある場合) | 報告メモを様式の項目に整理する、保護者向けの周知文の下書きを作る | 要因の分析と、対策の決定 |

保育のAI活用で公表された
取り組みと活用例
ここでは、自治体と国の資料に載っている取り組みと活用例を紹介します。数値と表現は、各資料の記載どおりです。
大分市:月案の
原案を生成AIで作る
内閣官房の第4回Digi田甲子園に掲載された「保育とAI~生成AIによる保育業務の効率化~」(公益財団法人ハイパーネットワーク社会研究所、実施地域は大分県大分市)は、生成AIで月間指導計画の作成を効率化した取り組みです。
取組内容によると、生成AIに保育所保育指針や園のデータ、月間指導計画のサンプル等を学習させ、保育士が記載した前月の反省点をプロンプト(AIへの指示文)として入力し、月間指導計画の作成を指示しています。月間指導計画の作成時間は、取り組み前が「1週間程度」、取り組み後が「30分〜40分程度」と記載されています(2026年10月15日に確認)。資料には、この「1週間程度」が作業時間なのか、完成までにかかった日数なのかは書かれていません。
具体的な進め方は、主幹保育教諭と担当保育士が大まかな計画内容を話し合い、同時並行で生成AIを活用して指導計画案を作成していく形です。AIに渡す材料は保育士が書いた前月の反省点で、子どもを見て振り返る仕事は保育士に残っています。
同じ取り組みを紹介するデジ田メニューブックには、「検証段階では妥当な内容もあったが、部分的に現場と乖離した内容もあった。」とあります。成果を上げた秘訣には「現場の声を聞きながら行ったチューニング」が挙げられ、「現場に即した計画にするためには、保育所の協力を得ながらチューニングする必要がある」と書かれています。指針などを読み込ませるだけで現場に合う原案が出たわけではなく、現場の声をもとに生成AIの調整を重ねて使える形にしています。
宮城県:おたより・LINEの文章と、
遊びのアイデア
宮城県は令和7年10月に「保育施設の生成AI活用集」を発行し、県内の保育施設の事例をまとめました。文章づくりの事例としてLINEの文章とおたよりが挙がり、簡単なメモから文章を作れるので時短につながること、季節の挨拶を入れたり丁寧な文体に書き換えたりするときに便利なことが説明されています。
ほかに、外遊びや夏祭りの種目のアイデア出し、園のしおりを読み込ませたチャットボットでの保護者対応、写真をイラスト風にして園の発信に使う例も、同じ資料にあります。
「気を付けたいこと」の頁では、個人用の端末で勝手に利用したり、個人情報を入力したりしないよう、各園のセキュリティ基準に準じて適切な利用を促す必要があるとしています。生成AIの回答は事実と異なることがあるので、内容が正しいかの確認も欠かせません。
こども家庭庁:連絡帳の作成支援と、
AI利用時の留意点
こども家庭庁の「保育ICT導入・活用実践事例集」(令和8年3月)は、13〜14ページのコラムでAI利用時の留意点を取り上げています。保育施設向けの活用例として、連絡帳の作成支援、イベントや計画のアイデア創出支援、外国語のお知らせの翻訳作業支援、こどもの写真の整理作業支援などが紹介されています。
留意点は、生成AIの回答根拠と情報の正確さを人の目で確かめることと、個人情報の扱いです。保育日誌や連絡帳には個人情報が含まれることが想定されるため、入力した情報を学習に使わない旨を利用規約に明示しているサービスを選び、職員研修と運用ルールを整えるよう求めています。
同じ対策は、こども家庭庁が令和7年3月に作成した「生成AIの導入・活用に向けた実践ハンドブック」にもあります。自治体や保育施設等での実証をもとにまとめた資料で、14〜15ページでは、写真記録をもとにした保育日誌・連絡帳の文言作成を活用例に挙げ、職員が生成AIの使い方を聞ける相談先を決めておくことも勧めています。
ここまでの資料に共通するのは、生成AIは下書きと整理に使い、子どもの姿の判断と最終確認は保育者が持つという分担です。
4業務の指示文の例と、
保育士が直す点
ここからは、月案・連絡帳・おたより・安全計画とヒヤリハットの4業務について、指示文の例と、出力を受け取った後に保育士が直す点を示します。指示文は、法人が利用を認めた生成AIで試し、出力を確かめながら園の様式に合わせて直してください。
① 月案:前月の
振り返りから原案を作る
保育士が書いた前月の振り返りを材料にする点は、大分市の事例と同じです。ただし大分市では、指針や園のデータ、月案のサンプルを読み込ませたうえで、実施団体である研究所の担当者が現場の声をもとに調整を重ねています。次の指示文を貼るだけで同じ時間になるとは限りません。子どもの名前は書かず、その子だけの出来事のように誰のことか分かる書き方も避けて、クラス全体の姿として書きます。
入力するメモ(2歳児クラスを想定した架空の例)
2歳児クラス 12名 担任3名
10月の振り返り
・運動会の後、かけっこやダンスを自分たちで再現して遊ぶ姿が多い
・着替えを自分でしようとする子が増えたが、ボタンは援助が必要
・友だちが使っているおもちゃを取ろうとする場面が週に数回あり、保育士が間に入っている
・苦手な野菜を一口食べてみる子が増えた
・散歩で落ち葉や木の実を集めて遊ぶ姿が見られる
11月の予定:芋ほり遠足、避難訓練、身体測定
年間計画のこの期のねらい
・身の回りのことを自分でしようとする
・友だちと関わって遊ぶ楽しさを味わう
月案の原案を作る指示文
保育所の2歳児クラスの月間指導計画(11月)の原案を作ってください。
次の【前月の振り返り】【11月の予定】【年間計画のねらい】だけを材料にし、【出力する項目】の順に書いてください。
【守ること】
・材料に書かれていない子どもの姿、出来事、人数を作らない。
・材料から書けない項目は「材料なし(担任が記入)」と書く。
・保育所保育指針の文言を引用しない。引用が必要だと思う箇所には「指針の該当箇所を担任が確認」と書く。
・子どもの個人名と、一人一人の発達の評価は書かない。クラス全体の姿として書く。
・「前月の子どもの姿」は「〜する姿が見られた。」のように書き、そのほかの項目の文末は「〜する。」「〜できるようにする。」のような計画の書き方でそろえる。
・最後に、担任に確かめてほしい点を3つまで挙げる。
【出力する項目】
1. 前月の子どもの姿(3〜4文)
2. 今月のねらい(2〜3つ)
3. 内容
・養護(生命の保持・情緒の安定)
・教育(健康・人間関係・環境・言葉・表現)
4. 環境構成
5. 保育者の援助・配慮
6. 家庭との連携
7. 食育
8. 健康・安全
9. 行事
10. 担任に確かめてほしい点
【前月の振り返り】
(ここにメモを貼る)
【11月の予定】
(ここに貼る)
【年間計画のねらい】
(ここに貼る)
【出力する項目】は、園で使っている月案の様式の項目名に書き換えます。法人の中で様式がそろっていれば、本部が作った指示文1本を全園で使えます。園ごとに様式が違うと、指示文も園の数だけ必要になります。
園の書き方に近い原案にしたい場合は、過去の月案を1か月分、【見本】として指示文の最後に貼ります。大分市の事例でも、月間指導計画のサンプルを材料に使っています。
ただし、過去の月案には入力しない情報が混ざっていることがあります。貼るのはクラス全体の欄だけにし、0〜2歳児の月案にある一人一人の欄(個別的な計画)は除きます。残した欄も、健康・安全や家庭との連携の欄を含めて全項目を1つずつ読み、子どもの名前と誰のことか分かる出来事に加えて、入力ルールで「入力しない」とする情報(体調・けが・食事や睡眠の量、アレルギー・既往歴・服薬、発達の相談内容、家庭の事情など)に触れた記述を消します。消してよいか迷う記述が多い月案は、見本に使いません。
担任と主任が直す点
原案を受け取ったら、まず振り返りのメモと1文ずつ見比べます。宮城県の活用集は生成AIが事実と異なる情報を回答することがあるとし、こども家庭庁の事例集も出力内容を必ず人の目で確かめるよう求めています。月案では、「友だちと協力して」のような、メモにない子どもの姿が混ざっていないかを見ます。メモにない姿が書かれていたら、その文は削るか、担任が見た姿に書き直します。
次に、ねらいが年間計画のねらいとつながっているか、芋ほり遠足の移動や持ち物のような園の決まりと合っているかを確かめます。「材料にないことを作らない」と指示しても足されることがあるので、ねらいと文言は1つずつ見ます。月末の評価・反省の欄は、実際の保育を振り返って担任が書く欄なので、AIに書かせません。
2歳児クラスのように3歳未満児を担当する場合は、クラスの月案とは別に個別的な計画も必要です。保育所保育指針は「3歳未満児については、一人一人の子どもの生育歴、心身の発達、活動の実態等に即して、個別的な計画を作成すること。」と定めています。個別的な計画のメモは一人一人の発達の記録になるため、入力ルールの第1版では入力しない側に置き、まずはクラス全体の月案から試します。

② 連絡帳:保育士のメモを
保護者向けの文に整える
連絡帳は毎日何人分も書くため、文章を整える時間が積み上がります。一方で、1人の子どものその日の様子を書くので、4業務の中で最も個人情報に近い文章です。
名前を「本児」に置き換えたメモでも、入力するのは、保護者への説明と同意の確認が済んだ園で、法人がデータの扱いを契約で確かめたサービスに限ります。AIに渡すのは遊びや生活の様子の部分だけにして、体調・けが・食事や睡眠の量は、保育士が園の決まった書き方で書きます。メモには日時や、ほかの子どもの名前、きょうだいや家庭の出来事のように、その子だと分かる手がかりも書きません。
連絡帳の文を整える指示文
保育園の連絡帳に書く、今日の園での様子の文章を整えてください。
次の【メモ】だけを使ってください。
【守ること】
・メモにない出来事、気持ち、発言を足さない。
・子どもの名前は「本児」のままにする(名前は担任が書き入れる)。
・体調、けが、食事や睡眠の量には触れない(担任が別に書く)。
・保護者を責める表現、ほかの子どもと比べる表現を使わない。
・100〜150字、です・ます調で書く。
・メモから読み取れないことがあれば、文章の後に「確認したい点:」として書く。
【メモ】
(ここに貼る)
メモと出力の見本(架空の例)
【メモ】
本児 砂場で型抜き。何度も崩れる→自分でスコップで砂を足した。
4回目で成功。「見て」と保育士を呼ぶ。隣の子に型を貸した。
【出力の見本】
今日は砂場で型抜きに挑戦しました。何度か形が崩れましたが、自分でスコップで砂を足して工夫し、4回目にきれいに抜けると、うれしそうに「見て」と保育士を呼んでくれました。隣のお友だちに型を貸す姿もありました。
担任が直す点
この見本は、確かめ方を説明するために作った例です。見本の「うれしそうに」は、メモには書かれていない言葉を、説明のためにわざと入れています。出力は毎回変わるので、見比べは毎回行います。気持ちを表す言葉は、保育士がその表情を見た場合だけ残し、見ていなければ削ります。保護者は連絡帳の一言を、園での子どもの事実として受け取るからです。
毎日同じ書き出しや同じ型の文が続くと、保護者に定型文だと感じられます。宮城県の活用集も、生成AIの下書きに保育士として自分の言葉で伝えたい気持ちを加えるよう勧めています。AIの文に、保育士自身の一言を足してから送ることを、園の決まりにしておきます。
「本児」を名前に戻すときの書き間違いにも注意します。保育ICTの連絡帳画面に貼り付けたら、宛先の子どもの名前と内容をもう一度見比べ、主任または園長の確認を受けてから送ります。

③ おたより・行事のお知らせ
おたよりは園全体やクラス全体に出す文章なので、園児の個人情報を入れずに作れます。4業務の中で最初に試しやすいのは、おたよりです。
おたよりの下書きを作る指示文
次のメモの日付と曜日は、2026年11月を想定した架空の例です。実際に使うときは、園の暦で確かめた日付と曜日に書き換えてください。
保育園から保護者へ配る「11月のクラスだより」の下書きを作ってください。
次の【メモ】だけを材料にしてください。
【守ること】
・日付、曜日、時刻、場所、持ち物はメモのとおりに書き、変えたり足したりしない。
・メモにない行事、子どもの様子、数字を作らない。
・家庭の形を決めつけない(「お母さん」ではなく「保護者の皆さま」と書く)。
・はじめに季節のあいさつを2文以内で入れる。
・季節のあいさつ/先月のクラスの様子/今月の予定/お願いと持ち物、の順に書く。
・最後に、日本語が得意でない保護者向けに、今月の予定とお願いだけを、やさしい日本語で短く書いた版を付ける。
【メモ】
11月の予定:2026年11月12日(木)芋ほり遠足。雨の場合は11月13日(金)に延期。8時45分までに登園。
持ち物:汚れてもよい服、軍手、タオル、着替え一式、ビニール袋2枚
先月の様子:運動会のダンスを、自分たちでまねして遊んでいる
お願い:朝晩冷えるので、着脱しやすい上着を用意してほしい
担任が直す点
受け取った下書きは、日付・曜日・時刻・持ち物をメモと1つずつ照らし合わせます。曜日はAIに計算させず、メモの段階で書いておきます。日付と曜日の組み合わせや持ち物は、1つ違うだけで保護者が困る情報なので、AIの出力に頼らず、確かめた内容をメモに書いておくほうが確実です。
やさしい日本語の版は、意味が変わっていないかを担任が読み直します。外国籍の保護者向けの翻訳は、こども家庭庁の事例集でもAI活用例に挙がっていますが、園の大事な連絡は、翻訳の前に元の日本語を短く正確にしておくことが先です。
④ 安全計画とヒヤリハット:
報告を整理し、周知文を作る
保育所は、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準の第6条の3により、安全計画を策定し、職員への周知と研修・訓練を定期的に行うことが求められています。保護者に対しても、安全計画に基づく取組の内容等を周知しなければなりません。
これは保育所の場合です。小規模保育事業などは家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準の第7条の2に安全計画の定めがあり、認定こども園は類型によって適用される基準が異なります。複数の類型の施設を運営している法人は、施設ごとに根拠の条文を確かめてください。
また、平成28年3月に作成された教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドラインは、重大事故が発生するリスクがあった場面に関わった職員がヒヤリハット報告を作成し、施設・事業者が要因分析を行って事故防止対策を講じる取組みを示しています。
生成AIが手伝えるのは、走り書きの報告メモを様式の項目に整えることと、安全計画の要点を保護者向けの文にすることです。要因の分析と対策を決めるのは、園の会議と園長です。
AIに渡すメモには、日時、クラス、子どもの名前、顔色や体調を書きません。書くのは、場面、起きかけたこと、周りの環境、職員の対応だけです。日時・クラスと年齢・対応後の子どもの様子は、報告者が様式に直接書き入れます。
ヒヤリハット報告を整える指示文
保育園のヒヤリハット報告の下書きを、次の【メモ】から作ってください。
【守ること】
・メモに書かれていない時刻、人数、子どもの様子、対応を足さない。
・「発生日時」「クラスと年齢」「対応後の子どもの様子」の欄には、「報告者が記入」とだけ書く。
・そのほかでメモから分からない項目は「記載なし(報告者に確認)」と書く。
・原因を断定しない。「考えられる要因」は、メモから読み取れることだけを候補として書き、それぞれに「会議で確認」と付ける。
・誰のことか分かる書き方をしない。
【出力する項目】
発生日時/場所/クラスと年齢/そのときの活動/起きかけたこと/その場の対応/対応後の子どもの様子/考えられる要因(候補)/報告者が気づいたこと
【メモ】
(ここに貼る)
たとえば「午睡中。見回りで、うつぶせになっている子に気づき、あおむけに直した。布団の横にタオルが落ちていた。」という架空のメモなら、タオルの置き場所は要因の候補として挙がりますが、それが原因かどうかは会議で確かめます。
月末に報告を場面ごとに数える作業は、AIに数えさせず、Excelの集計で行います。件数の数え間違いは、そのまま会議の判断の誤りになるからです。AIには、報告を「睡眠中」「食事中」「水遊び」などのどの場面に分けるかの案を出させる程度にとどめます。
保護者向けの周知文を作る指示文
次の【安全計画の要点】をもとに、保護者向けのお知らせ文(400字以内)を作ってください。
【守ること】
・要点に書かれていない取組、回数、時期を足さない。
・保護者へのお願いは【お願い】に書かれたものだけを使う。
・です・ます調で、専門用語は使わない。
【安全計画の要点】
(ここに貼る)
【お願い】
(ここに貼る)
けがや事故が起きたときの保護者への説明と、市区町村への報告は、AIで文面を作らず、園長が事実を確かめてから書くことをおすすめします。事実の確認と説明の責任が、文章の整え方より先に来る場面だからです。
園児の情報を
どこまで入力するかの決め方
指示文を各園へ配る前に、何を入力してよいかを法人として決めます。
個人情報保護委員会の注意喚起で
確かめること
個人情報保護委員会が令和5年6月2日に公表した生成AIサービスの利用に関する注意喚起等は、個人情報取扱事業者向けに2つの注意点を挙げています。
一つは、個人情報を含む指示文を入力するなら、特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認することです。もう一つは、本人の同意なく個人データを含む指示文を入力し、そのデータが応答の出力以外の目的で扱われると法律に違反する可能性があるため、提供事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認することです。
公立の保育所は、同じ注意喚起のうち行政機関等向けの注意点と、自治体の規程に従います。私立の保育法人とは確認先が違う点に注意してください。
契約を確かめるときは、「入力した情報を学習に使わない」という一文だけで入力してよいと決めないでください。入力した内容がどの事業者に送られるか、どこにどれだけの期間保存されるか、ほかの事業者に処理を委ねているかも、利用規約と契約書で確かめます。
入力の線引きを3段階で決める
入力する情報を3段階に分けて紙1枚にしておくと、園ごとの判断のばらつきを減らせます。
| 段階 | 例 | 決めておくこと |
| そのまま入力してよい | 行事の日程と持ち物、園全体へのお知らせ、様式の項目名、年間計画のねらい | 法人が利用を認めたサービスだけを使う |
| 誰のことか分かる記述を消し、法人の承認と契約を確かめてから入力する | クラス全体の振り返りと過去の月案(一人一人の欄と、3段目に当たる記述は除く)、名前を「本児」に置き換えた連絡帳のメモ、日時・クラス・子どもの体調を除いたヒヤリハットのメモ | データの送り先・保存・学習への利用を契約で確かめる、利用目的の範囲内か、消す項目の一覧。連絡帳とヒヤリハットのメモは、保護者への説明と同意の確認が済んだ園だけで入力する |
| 入力しない | 園児・保護者の氏名、生年月日、住所、電話番号、顔が分かる写真、体調・けが・食事や睡眠の量、アレルギー・既往歴・服薬、発達の相談内容、3歳未満児の個別的な計画のメモ、家庭の事情、児童票・保育要録 | 保育ICTや園の書類の中だけで扱う |
名前を消したメモも、個人情報として扱う前提で決めます。園の中では、日付やクラスと照らし合わせれば誰のことか分かりますし、人数の少ないクラスほど出来事だけで本人が分かります。そのため、2段目の情報は入力する前に、名前に加えて、日時、人数の少ない場面、その子だけの出来事の記述を消します。消してよいか迷う記録は、入力しない側に置きます。
職員が個人のアカウントや個人のスマートフォンで園児の情報を入力する使い方は、最初に禁止しておきます。同じ製品名でも、個人向けと法人向けの契約で、入力データの扱いや管理機能が違う場合があるためです。
法人で使うサービスを選ぶときは、各社の法人向けプランの公式の説明で、入力した内容が学習に使われるか、どれだけの期間保存されるか、管理者が利用者と設定を管理できるかの3点を確かめます。すでに法人で契約しているGoogle WorkspaceやMicrosoft 365にも生成AIの機能があり、データの扱いはGoogleの生成AIのプライバシーに関する説明や、MicrosoftのCopilot Chatのデータ保護の説明に書かれています。今の契約も候補に入れ、ほかのサービスと同じ3点で比べてください。
連絡帳のメモを入れる前に、
保護者へ説明する
こども家庭庁の実践ハンドブックは、生成AIで個人情報を扱う場合、保育施設や自治体の判断のもとで、利用の目的、扱う情報の範囲、安全管理の方法を利用者に丁寧に説明することが重要だとしています(38ページ)。
同じ資料にある実証の例では、導入する保育施設ごとに保護者向けの説明会を開き、個人情報の提供について想定されるリスクと対策を示したうえで、書面でも同意の有無を確かめています。1家庭でも同意しない回答があった場合は、導入する施設の選び直しや、計画の縮小を検討するようにしていました(29ページ)。
ハンドブックは義務を定めるものではなく、参考資料という位置づけです。それでも、連絡帳やヒヤリハットのように一人の子どもに関わる記録を入力する使い方は、保護者への説明と同意の取り方を法人で決め、その手続きが済んだ園から始めます。おたよりは、この手続きの前から試せます。クラス全体の月案も、誰のことか分かる記述を消し、契約を確かめたうえでなら、この手続きの前から試せます。
写真は、同意と法人の承認が
そろうまで入れない
宮城県の活用集は、写真をイラスト風にして園の発信に使う例に「安全な運用のために」として、写真利用について保護者の同意を書面で確認し、写っている子どもからも同意を得ること、個人の特定につながらないよう注意すること、商業目的でないことを明確にすることを添えています。
こども家庭庁の事例集も、生成AIの生成物は、特に画像について著作権をはじめとした知的財産権等に配慮する必要があるとしています。園児が写った写真は、保護者の書面の同意、写っている子ども本人の同意、使うサービスでの写真の扱いの確認、法人の承認がそろうまで、生成AIに入力しない側に置きます。
本部から各園へ
配る入力ルールの例
次の例は、法人の事情に合わせて書き換えて使えるようにしています。サービス名や担当者の欄は法人に合わせて埋めてください。
生成AIの入力ルール(第1版)
1. 使ってよいサービス
法人が契約し、入力した情報の送り先・保存・学習への利用を本部が確かめた(サービス名)だけ。個人のアカウント・個人のスマートフォンでは使わない。
2. そのまま入力してよいもの
行事の日程・持ち物、園全体へのお知らせ、様式の項目名、年間計画のねらい
3. 誰のことか分かる記述を消してから入力するもの
クラス全体の振り返りと過去の月案(一人一人の欄は除く。残す欄も全項目を4.の一覧と照らし、名前、日時、人数の少ない場面、その子だけの出来事と、4.に当たる記述を消す)
連絡帳のメモ(名前は「本児」に置き換える。遊びと生活の様子だけを書き、日時・ほかの子どもの名前・家庭の出来事など、その子だと分かる手がかりは書かない)
ヒヤリハットのメモ(日時・クラス・子どもの名前と体調は書かず、場面・起きかけたこと・環境・職員の対応だけを書く)
連絡帳とヒヤリハットのメモは、保護者への説明と同意の確認が済んだ園だけで入力する。
消してよいか迷う記録は入力しない。
4. 入力しないもの
園児・保護者の氏名、生年月日、住所、電話番号、顔が分かる写真、体調・けが・食事や睡眠の量、アレルギー・既往歴・服薬、発達の相談内容、3歳未満児の個別的な計画のメモ、家庭の事情、児童票・保育要録
5. 出力の確認
保護者に出す文章は、書いた保育士が元のメモと見比べ、主任または園長が確認してから送る。
6. 迷ったとき・入力してしまったとき
入力する前に園長に聞く。入力してはいけない情報を入力したと気づいたら、すぐに園長と本部(担当: )に伝える。本部は、入力した内容と使ったサービスを確かめ、その後の対応を決める。
7. 見直し
半年に1回、本部と各園の園長で見直す。

複数の園で始める順番
最後に、法人の本部が全園に広げる前に、何をどの順で試すかを示します。
1. 各園の書類に
かかる時間を書き出す
園長と主任が、先月の月案・連絡帳・おたより・ヒヤリハット報告に「誰が・どれくらい」時間を使ったかを書き出します。正確な計測でなくても、持ち帰りや残業の原因になった書類が分かれば十分です。書き出す表の作り方は、AI化する業務の選び方(業務棚卸し表)の記事で説明しています。
2. おたよりから、2〜3園で試す
最初の業務は、園児の情報を入れずに作れるおたよりにします。2〜3園で、各園の担任2〜3人に試してもらい、指示文とメモの書き方を固めます。行事の打ち合わせのように、子どもや家庭の個別の話が出ない会議の記録づくりも、個人情報を入れずに試せます。進め方はAI議事録の作り方にまとめています。個別の子どもの様子や発達の相談、家庭の事情が話し合われる会議の録音やメモは、入力しない側に置きます。
おたよりで確認の手順に慣れてから、月案、連絡帳の順に広げます。連絡帳とヒヤリハットのメモは、入力ルールの2段目を法人で決め、契約を確かめ、保護者への説明と同意の確認が済んだ園から始めます。
3. 様式と指示文を本部でそろえる
試した結果をもとに、月案や報告の様式と指示文を本部で1つにそろえ、各園へ配ります。園ごとに指示文を書き換えさせると、入力ルールの守り方も園ごとにずれていきます。
こども家庭庁の事例集は、ICT活用の責任者を園の中で選ぶよう勧めています。園長など組織の意思決定者、ICT活用の責任者、一般職員の代表の最低3者でチームを作り、特定の人任せにしないことが留意点です。
このうち、ICT活用の責任者を置くことは保育ICT推進加算の要件にも入っています。ただし、公定価格FAQ(No.375)は、チームの職種や人数に具体的な要件はないとしています。「最低3者」は事例集が勧める体制で、加算の要件とは分けて考えます。
4. 時間と、直した箇所を記録する
2〜4週間、月案1本やおたより1枚にかかった時間と、AIの出力を保育士が直した箇所を記録します。時間が短くなっても、直す箇所が多いままなら、指示文かメモの書き方を見直します。直す箇所が減らないまま全園に広げると、確認の手間が各園に移るだけになります。
指示文で減る手間と、
減らない手間
おたよりや月案の下書きは、法人で契約した生成AIと、この記事のような指示文があれば、各園で試せます。
手間が残りやすいのは、その前後です。保育ICTに入っている記録を月案の材料として集める作業、AIの下書きを様式に貼り直す作業、各園のヒヤリハット報告を本部で毎月まとめる作業は、指示文だけでは減りません。大分市の取り組みも、デジ田メニューブックの「今後の展望」に、出力された計画を様式に落とし込む仕組みと、こどもの発達記録を行うシステムとの連動の検討を挙げています。
こうした転記や集計を減らすには、どの情報をどのシステムから取り出し、どこで人が確認するかを決めたうえで、データの受け渡しを組む必要があります。園児の情報を扱うため、入力ルールと契約の確認もその設計に含まれます。まず指示文で手間が減る業務を見つけ、残った転記と集計を仕組みにする順番にすると、どこに費用をかけるかを決めやすくなります。
指示文では減らない転記と集計は、入力ルールと人が確かめる場所を決めるところから、仕組みづくりまでを弊社にまとめてご相談いただけます。
まとめ:最初の1業務は、
園児の情報がいらないおたよりから
保育のAI活用で生成AIが手伝えるのは、月案・連絡帳・おたより・ヒヤリハット報告の下書きと整理です。子どもの姿を見て書く内容、保護者に出す前の確認、要因の分析と対策は、保育士と園長が持ちます。
始める前に、法人で使うサービスと入力ルールを決め、園児の情報がいらないおたよりから2〜3園で試してください。時間と直した箇所を記録し、直す箇所が減ったところで、月案や連絡帳へ広げます。