属人化を生成AIで解消するときに、AIに任せるのは「担当者から聞いた話を、ほかの人が使える判断表に整える」作業です。
手順書を作っても「あの人がいないと回らない」状態が残るのは、例外のときにどう判断するかが書かれていないからです。値引きを受けるか、どの注文を先に出すか、どこまで担当者が決めてよいかといった判断の基準と理由を言葉にできれば、ベテランに聞かなくても進められる場面が増えます。
この記事は、特定の社員に仕事が集中していて、休まれたり辞められたりすると困る中小企業の経営者・部門責任者に向けて書いています。
進め方は5段階です。点検表で属人化している業務を見つけ、判断が入る場面を担当者から聞き出し、生成AIで判断表にします。そのあと新人に使ってもらって直し、決まった行から仕組みに置き換えます。点検表、聞き取りの質問、判断表を作る指示文は、そのままコピーして使える形で載せています。
記事内の会社・業務・聞き取りメモは、説明のために作った架空の設計例です。判断表・要確認の一覧・AIの答え方は、その架空のメモを使って弊社で指示文を実際に動かした出力をもとにしています。特定の会社の記録や、AI製品の性能を比べた結果ではありません。
この記事で分かること
- 判断表は、判断している本人に話を聞けるうちにしか作れません
- 判断の基準を聞き出すには、一般論ではなく、最近実際に判断した場面を1件ずつ聞きます
- AIが作った判断表は、部門責任者が確認して承認するまで正式なルールとして扱わないことも決めておきます
属人化が解消しないのは、
判断が担当者に残るから
属人化とは、業務の進め方や判断が特定の担当者にしか分からず、その人がいないと仕事が進まない状態のことです。担当者が休めばその業務は止まり、辞めれば判断の理由ごと社内から消えます。最初に、属人化している中身を分けて、生成AIで手伝える部分を確かめます。
手順書があっても、
例外のたびにベテランに聞く
受注処理の手順書がある会社でも、いつもと違う注文が来ると、ベテランの席に確認しに行く人が出てきます。手順書に書けるのは「注文書を受け取り、在庫を確かめ、販売管理システムに入力する」という流れです。
一方で、「常連の取引先から3%値引きしてほしいと言われた」「同じ在庫を2社が欲しがっている」ときに何を見てどう決めるかは、担当者の頭の中にしかありません。
属人化の解消でつまずくのは、手順ではなく判断の部分です。判断の基準が書かれていないと、新しい担当者は毎回確認するか、自分の感覚で決めるしかなくなります。前者はベテランの負担が減らず、後者は取引先ごとに対応がばらつきます。
生成AIで手伝える属人化と、
手伝えない属人化
属人化している中身は、おおむね次の4つに分けられます。生成AIが役に立つのは、言葉にすれば伝わる「手順」と「判断」です。
| 属人化している中身 | 例 | 生成AIの使い方 |
| 手順(何をどの順でやるか) | 月末の請求書発行、システムへの入力の順番 | 業務メモから手順書や業務フロー図の下書きを作る |
| 判断(どちらを選ぶか・例外の扱い) | 値引きを受ける条件、出荷の優先順位、上司に回す境目 | 聞き取りメモを判断表にし、あいまいな条件を質問として洗い出す(この記事の対象) |
| 関係(相手との信頼) | 取引先の担当者と電話一本で話がつく | AIでは置き換えにくい。同行や紹介で、相手が話せる社員を二人目まで作る |
| 体で覚えた技能 | 機械の音で不調に気づく、加工の手加減 | 言葉の記録だけでは伝わりにくい。動画や横に付いての実習と組み合わせる |
手順の部分は、すでに作り方が整理されています。業務メモから手順書にする方法は、生成AIでマニュアル作成で説明しています。
この記事では、手順書を作っても残る「判断」を言葉にすることに絞ります。

点検表で、属人化している
業務を見つける
次に、社内のどの業務から手を付けるかを、5つの項目で点検して決めます。
点検表の5項目と点数の付け方
「誰に聞けば分かるか」を思い浮かべるだけでは、声の大きい部署の業務が先に挙がります。業務ごとに同じ物差しで点数を付けると、止まったときに困る業務が見えてきます。
| 点検項目 | 2点 | 1点 | 0点 |
| 担当者の人数 | 1人だけ | 2人いるが、片方は補助 | 2人以上が単独でできる |
| 代わりにできる人 | 社内にいない | 時間をかければできる人がいる | すぐ代われる人がいる |
| 止まったときの影響 | 1日で取引先や売上に影響が出る | 1週間以内に社内が困る | 月をまたいでも困らない |
| 発生する頻度 | 毎日〜毎週 | 毎月 | 年に数回 |
| 判断が入るか | 毎回のように判断がある | ときどき例外がある | 手順どおりで終わる |
合計は10点満点です。「判断が入るか」が2点で、合計が7点以上の業務が、判断表を作る最初の候補になります。判断が0点で合計が高い業務は、手順書を整えるだけで代わりの人を作りやすい業務です。
点数の区切りは弊社で考えた目安です。「1日で影響が出る」の基準などは、自社の取引に合わせて変えてかまいません。業務どうしを同じ物差しで比べることが目的です。
年に数回の業務は頻度が0点になりますが、決算や棚卸しのように手順を忘れやすい業務もあります。点数が低くても、担当者が1人しかいない年1回の業務は別に印を付けておきます。
記入例:架空の工具卸の5業務
社員20人ほどの工具・資材の卸売会社を想定した架空の記入例です。受注担当のベテランが1人いて、ほかの社員は入力や出荷を手伝っている状態とします。
| 業務 | 人数/代わり/影響/頻度/判断 | 合計と扱い |
| 受注時の値引きと出荷の優先順位 | 2/2/2/2/2 | 10点。判断表を最初に作る |
| 仕入先への発注量の決定 | 2/1/1/2/2 | 8点。2番目の候補 |
| 新規取引先の与信と支払条件 | 2/2/1/1/2 | 8点。ただし社長決裁の範囲を先に確かめる |
| 月末の請求書発行 | 1/1/2/1/0 | 5点。手順書で足りる |
| 年1回の棚卸しの段取り | 2/2/1/0/1 | 6点。1人だけの年1回業務として別に印 |
点検表は、部門責任者が業務を挙げ、担当者本人と一緒に点数を付けると早く終わります。担当者が「この業務は自分しか分からない」と思っていても、周りから見ると代われる人がいる場合もあるためです。
点検表は属人化の度合いを見るためのものです。AIに任せやすい業務を件数や時間で比べたい場合は、業務棚卸し表で比較する方法を使います。
担当者がいるうちに、
判断の多い業務から始める
判断の理由を確かめるため、本人に話を聞けるうちに判断表を作ってください。退職や異動の日付がすでに決まっている業務は、先に引き継ぎ書で最低限の手順を残し、そのあと判断表に取りかかります。
最初の1業務は、点数が最も高いものより「毎週のように判断が起きて、担当者が協力してくれる業務」を選びます。判断の回数が多いほど聞き取りの材料が集まり、判断表も早く試せます。
判断が入る場面を、
担当者から聞き出す質問
判断表の材料は、担当者への聞き取りで集めます。ここでは、判断の理由まで聞き出すための質問を載せます。
普段のやり方ではなく、
直近の3件を聞く
「値引きはどう判断していますか」と聞くと、多くの担当者は「ケースバイケースです」「長い付き合いのところは少し考えます」と答えます。本人にとっては当たり前すぎて、条件として言葉になっていないためです。
判断の基準を聞き出すには、一般論ではなく、最近実際に判断した場面を1件ずつ聞きます。「先週、いつもと違う対応をした注文はありましたか」と聞けば、取引先・金額・そのとき見た資料・決めた理由が具体的に出てきます。
3件ほど聞くと、毎回見ている条件と、件ごとに違う条件の区別がつくようになります。1回の聞き取りは1業務・1時間ほどに区切ります。誰が何をどの順でやるかという流れの聞き取りとは分けて、判断の場面だけを聞くと話が散らかりません。
録音しておくと、あとでメモと突き合わせられます。ただし録音には、取引先の名前や取引条件、ほかの社員の名前も入ります。
録音するときは、何のために録るか、どこに保存していつ消すかを担当者に伝え、了承をもらってから始めます。録音ファイルは会社が決めた保存先にだけ置き、文字起こしも会社として利用を認めたサービスで行います。
文字起こしの文章をAIに渡すときは、聞き取りメモと同じように名前を置き換え、判断に使わない部分を削ります(AIに入れる前に決めること)。録音の文字起こしからメモを整える方法は、AI議事録の作り方が参考になります。
聞き取りの質問リスト
(そのまま使える)
次の質問は、場面を特定する→判断と理由を聞く→境目を聞く→迷った場面を聞く、の順に並べています。上から順に聞けば、判断表の列(条件・判断・理由・確認先)が埋まる作りです。
【判断の聞き取り質問】業務名:____ 聞き手:____ 日付:____
■ 場面を特定する
1. この1か月で、いつもと違う対応をした件を3つ挙げてください。
2. その件は、いつ・どの取引先(社内なら部署)から・何の依頼でしたか。
■ 判断と理由を聞く(3件それぞれについて)
3. そのとき、どうすると決めましたか。ほかにどんな選び方がありましたか。
4. 決める前に、何を見ましたか(システムの画面、台帳、過去のメール、相手の様子など)。
5. その選び方にした理由は何ですか。逆の選び方をしていたら、何が困りましたか。
■ 境目を聞く
6. 条件がどう変わっていたら、違う判断になりましたか(金額、取引の期間、回数、納期など)。
7. 「多い」「急ぎ」「常連」と言うとき、具体的にはどのくらいからですか。
8. あなたが自分で決めてよい範囲はどこまでですか。そこを超えたら誰に聞きますか。
■ 迷った場面・失敗した場面を聞く
9. 最近、判断に迷った件はありましたか。何と何で迷いましたか。
10. 判断して、あとから「失敗した」と思った件はありますか。今ならどうしますか。
■ 新しい担当者を想定して聞く
11. 新しい人がこの仕事をしたら、最初に間違えそうなのはどこですか。
12. 新しい人に「これだけは自分で決めずに聞いてほしい」と思う場面はどれですか。
質問5の「逆の選び方をしていたら、何が困りましたか」は、理由を引き出すための質問です。理由を聞かずに判断だけを集めると、条件が少し変わった場面で新しい担当者が応用できません。
質問10と12で出てきた場面は、判断表の中でも特に優先して残します。ベテランが失敗から覚えた判断は、手順書に最も書かれにくい部分だからです。

聞き取りの前に
担当者へ伝えること
聞き取りの前に、目的は担当者を評価することではなく、担当者が休めるようにすることだと伝えます。「自分しか分からない」ことが社内での立場になっている人ほど、判断を言葉にすることをためらいます。
あわせて、完成した判断表は担当者本人に確認してもらってから使うこと、判断表で決められない場面はこれまでどおり担当者に相談することも伝えておきます。判断表ができても、担当者の仕事がなくなるわけではありません。
聞き取りに使う時間を業務時間として確保することも、部門責任者の役目です。忙しい担当者に「手が空いたときに書いておいて」と頼むと、目の前の仕事が優先されて後回しになりがちです。
架空の聞き取りメモ:受注時の
値引きと出荷の優先順位
先ほどの工具卸の受注担当に、質問リストで聞き取った想定のメモです。取引先名は「取引先A」のように置き換えています。
【聞き取りメモ】受注時の値引きと出荷の優先順位(受注担当ベテランに聞き取り)※架空の例
件1:取引先A(取引5年、毎月同じ品番を注文、支払いの遅れは一度もない)から、
見積の3%値引きを頼まれた。2%で受けた。
・見たもの:販売管理システムの取引履歴、仕入値の改定表
・値引き自体を受けたのは、毎月注文があって、支払いの心配がない相手だから
・3%にしなかったのは、その品番の仕入値が先月上がって、利益が薄くなっていたから
・2%なら自分の判断でよい。5%を超えるなら営業部長に聞く
件2:取引先B(新規、今回が2回目の注文)から5%値引きを頼まれた。断った。
・初回と2回目は定価にしている。3回目の注文から相談に乗ると伝えた
・支払いの実績がまだないから
件3:在庫が1社分しかない品番を、取引先Aと取引先Cが同じ日に注文してきた。
先に注文が来たのはAだったが、Cに先に出荷した。
・Cは「明日届かないと現場が止まる」と言っていた
・Aは普段から納期に余裕を持って注文してくるので、Aの購買担当に電話して
3日後の入荷分でよいか確かめた。了承をもらってからCに出した
・Aは3日待っても困らないが、Cは届かないと工事が止まって損が大きいから
その他:
・「常連」は1年以上取引があるところ、という感覚
・急ぎの注文は、だいたい電話で来る
・利益が薄い品番は、自分で覚えている。一覧にはしていない
聞き取りメモをAIに入れる
前に、社内で決めること
実際の聞き取りメモには、取引先の名前や取引条件、社員の名前が入ります。AIに貼り付ける前に、次の3つを社内で決めておきます。
使ってよいAIサービスと
契約を決める
まず、業務の情報を入れてよいAIサービスと、その契約の種類を会社として決めます。個人のアカウントで業務の情報を入力すると、入力した内容がどう扱われるかを会社が確かめられません。入力した内容がAIの学習に使われるかどうか、どの範囲の社員が見られるかは、サービスや契約の種類で変わります。
自社の契約がこの条件を満たすか分からないときは、契約しているサービスの規約やプランの説明で、入力した内容が学習に使われるかどうかと、管理者が社員の利用を管理できるかどうかを確かめます。
それでも分からなければ、社内のシステム担当か契約の窓口に「このプランで、入力した内容はAIの学習に使われますか」と聞くのが早道です。
個人情報保護委員会は、2023年6月2日に生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています。社員や取引先担当者の個人情報を入力する前に、この注意喚起と、利用するサービスの規約を確かめてください(2026年10月28日に掲載を確認)。
名前を置き換え、
判断に使わない情報を削る
判断表を作るのに、人の名前や取引先名は要りません。聞き取りメモの段階で「受注担当」「取引先A」のように役割や記号へ置き換えます。
ただし、名前を記号にしただけでは足りないこともあります。取引の年数・注文の頻度・値引きの率がそろうと、社内の人には相手が分かりますし、取引条件そのものも社外のサービスに渡ってしまいます。
貼り付ける前に、判断の条件として使う特徴だけを残し、それ以外は削ります。見積の金額や品番は、判断に使っていなければ消します。取引の年数も、判断の境目が「1年以上」なら「1年以上」とだけ書けば足ります。
記事内の聞き取りメモは架空のものなので、社内のメモを入れる前に、このメモで指示文の動きを確かめることもできます。
AIの出力を承認する手順を決める
AIが作った判断表は、部門責任者が確認して承認するまで正式なルールとして扱わないことも決めておきます。値引きの上限や与信のように会社のお金に関わる行は、特にこの確認を省かないようにします。
聞き取りメモを
判断表にする指示文
ここからが生成AIの出番です。聞き取りメモを、新しい担当者が使える判断表に整えます。
判断表の列は、
条件・判断・理由・確認先の4つ
判断表は、1行に1つの判断を書いた表です。手順書が「何をするか」を書くのに対して、判断表は「どの条件のときに、どう決めるか、なぜそうするか」を書きます。
| 列 | 書くこと | 書き方の注意 |
| 条件 | その判断をするのは、どんな場面か | 金額・回数・期間・在庫数など、誰が見ても当てはまるか分かる言葉にする |
| 判断 | どうするか | 「検討する」ではなく「定価で受ける」「部長に回す」のように動作で書く |
| 理由 | なぜそうするか | 担当者が話した理由を残す。条件に当てはまらない場面で応用するときの手がかりになる |
| 確認先・権限 | 自分で決めてよい範囲と、超えたら誰に聞くか | 役職名で書く。人の名前は書かない |
4つの列のうち、新しい担当者が最も助かるのは「理由」の列です。条件がぴったり当てはまらない場面でも、理由が分かっていれば、何が違うかを整理して確認先に聞けます。表にない条件の可否を、新しい担当者が独断で決めるための列ではありません。
指示文①:判断表と、
聞き直す質問を作る
ChatGPT・Gemini・Claude・Copilotなど、会社で利用を認めている対話型AIに、次の指示文と聞き取りメモを貼り付けます。メモは、名前の置き換えと不要な情報の削除を済ませたものを使います。[ ]の部分は自社の業務に合わせて書き換えてください。
あなたは、社内の業務ルールを文章にまとめる担当者です。
下の【聞き取りメモ】は、[業務名]を担当している社員に、最近の判断を聞いた記録です。
このメモをもとに、新しく担当になった人が同じ判断をできるように「判断表」を作ってください。
# 作るもの
1. 判断表(表形式)
列:No/場面/条件/判断/理由/確認先・権限
- 1行に1つの判断を書く。
- 「条件」は、誰が見ても当てはまるか分かる書き方にする(金額・%・回数・期間・在庫数など)。
- 「判断」は「検討する」ではなく、何をするかを動作で書く。
- 「理由」は、担当者が話した理由を要約する。メモにない理由は作らない。
- 「確認先・権限」には、担当者が自分で決めてよい範囲と、超えたときに聞く相手を役職で書く。
判断の前に見る資料(システムの画面、台帳など)は「条件」の列に書く。
2. 要確認の一覧
次の3種類を探し、担当者にそのまま聞ける質問文にする。
新しい担当者が判断を間違えたときに損が大きいものから順に並べる。
- あいまいな言葉(「多い」「急ぎ」「常連」「薄い」など、人によって受け取り方が変わる言葉)
- 条件の境目が分からない箇所(例:何%から上司に回すのか)
- メモの中で判断が食い違っている箇所
3. 判断表に当てはまらない場面
判断表のどの行の条件にも当てはまらない場面を3つ考え、担当者に聞く質問文にする。
# 守ること
- メモにない数字・条件・理由を足さない。推測が必要な箇所は判断表に入れず、要確認の一覧に回す。
- 人の名前と取引先名は書かない。メモの中の置き換え(取引先Aなど)はそのまま使う。
- 判断表の「条件」に、特定の取引先名を書かない。取引先の特徴(取引の期間、注文の回数など)で書く。
【業務名】
[例:受注時の値引きと出荷の優先順位]
【聞き取りメモ】
[ここに聞き取りメモを貼り付ける]
「メモにない数字・条件・理由を足さない」という一文は外さないでください。指示がないと、AIは文章を整える途中で、それらしい数字や理由を補うことがあります。補われた数字は担当者が言っていない基準なので、判断表に入ると誰も決めていないルールが社内に広まります。
弊社でこの指示文をClaudeで試したところ、最初の版では直す点が2つ見つかりました。1つは、「確認先・権限」の列に「取引履歴を確認する」のような見る資料が混ざったことです。もう1つは、要確認の質問が21問並び、担当者にどれから聞けばよいか分からなかったことです。
上の指示文には、見る資料を「条件」の列に書く行と、損の大きい順に並べる行を足してあります。足したあとに2回実行すると、2回とも確認先の列に見る資料は入らず、要確認はどちらも9問でした。
試したのはチャット画面ではなく、開発者向けのコマンド操作からClaudeを動かす方法です。チャット画面で同じ指示文を使っても、表の分け方や質問の数は変わることがあります。
実際の出力と、直す箇所
上の架空の聞き取りメモと指示文①を、2026年10月15日にClaude(Sonnet 5.5)へ渡した出力です。列をまとめ、言い回しを短くして載せています。同じ指示文でも、行の分け方や言い回しは実行のたびに変わり、2回目の実行では5行になりました。
「確認先・権限」の列だけは、AIが書いた文言のうち、メモで確かめられない権限を外して要確認の番号に置き換えています。理由は表のあとで説明します。
| No/場面 | 条件 → 判断 | 理由/確認先・権限 |
| D1 取引の続いている相手からの値引きの依頼 | 販売管理システムの取引履歴で、取引が長い・毎月同じ品番を注文・支払いの遅れが一度もない → 値引きを断らず、率を決めて回答する | 毎月注文があり、支払いの心配がないため/メモにあるのは「2%なら自分の判断でよい」「5%を超えるなら営業部長に聞く」だけ。自分で決めてよい範囲は要確認1 |
| D2 D1の相手で、仕入値が上がった品番 | 仕入値の改定表で、仕入値が直近で上がっている → 依頼より低い率で回答する | 仕入値が上がり、利益が薄くなっているため/どこまで率を下げてよいか、自分で決めてよいかは要確認1・3 |
| D3 取引が新しい相手からの値引きの依頼 | 販売管理システムで、今回が1回目か2回目の注文 → 値引きは断って定価で受け、3回目の注文から相談に乗ると伝える | 支払いの実績がまだないため/上司に確認した記載がメモにない(要確認) |
| D4 在庫1社分に2社が同じ日に注文 | 先に注文した側は普段から納期に余裕があり、後の側は明日届かないと現場が止まる → 先の側に電話して入荷分でよいか確かめ、了承をもらってから後の側へ先に出荷する | 先の側は数日待っても困らず、後の側は工事が止まって損が大きいため/メモにあるのは、了承をもらってから出荷したことだけ。担当者だけで決めてよいか、了承が取れないときの扱いは要確認4 |
要確認の一覧は9問で、上から5問は次のとおりです(言い回しを短くしています)。
【要確認】(損の大きい順・9問のうち上から5問)
1. 2%は自分の判断、5%超は営業部長とのことでした。3%・4%・5%ちょうどは、自分で決めてよいですか。
2. 「利益が薄い」は、仕入値が何%上がったら、または利益率が何%を下回ったらですか。新しい担当者はどう見分ければよいですか。
3. 3%の依頼を2%にしたのは、利益が薄いからですか。2%までが自分の権限だからですか。
4. 先に注文した側が了承しなかったとき、電話がつながらないときはどうしますか。
5. 「現場が止まる」は、取引先の申告だけで優先してよいですか。
【判断表に当てはまらない場面】
1. 2社とも「届かないと現場が止まる」と言っているとき
2. 先に注文した側の購買担当が不在で、電話がつながらないとき
3. 取引は1年以上あるが、注文は数か月に1回で、支払いの遅れはない相手から3%の値引きを頼まれたとき
出力を受け取ったら、担当者本人に判断表を見てもらい、要確認の質問に答えてもらいます。
2回の実行とも、最初に挙がったのは「3%・4%・5%ちょうどは誰が決めるか」でした。メモでは2%と5%の話しか出ておらず、その間が抜けていたためです。こうした空白は、聞き取りの場では担当者も聞き手も気づきにくい部分です。
あわせて、次の3点を人の目で確かめます。
- 担当者が言っていない権限が書かれていないか:AIの出力では、メモの「2%なら自分の判断でよい」が「2%までは自分で決めてよい」に、件3の対応が「了承が取れれば自分で決めてよい」になっていました。担当者が話したのは、その件でどう決めたかだけです。AIがそれを権限の範囲に広げると、誰も認めていない値引きや出荷の権限が表に載ります。上の表では、こうした箇所をメモの言葉に戻して要確認に回しています。全部の行で、聞き取りメモと突き合わせてください。
- 理由が担当者の言葉と合っているか:AIが理由を一般論に言い換えていたら、担当者の言った理由に戻します。2回目の実行では、5%超を部長に回す行の理由が「メモに理由の記載なし」と正直に空けてありました。
- 条件に取引先名が残っていないか:2回目の実行では、指示文で禁じていても、条件の列に「取引先Aは取引5年」と記号が残りました。こうした行は、Aの特徴(取引5年、毎月同じ品番)だけに書き直します。
要確認の答えを反映し、担当者が「この表なら自分と同じ判断になる」と言えた時点で、判断表の1版目ができあがります。ただし、何%まで担当者が決めてよいかのような権限の行は、担当者の答えだけでは確定しません。値引きの権限を持つ部門責任者が承認して初めて、正式な社内ルールとして使えます。

判断表を新人に使って
もらい、ずれを直す
判断表は、作った人ではなく、使う人が試して初めて足りない行が分かります。ここでは試し方と直し方を説明します。
過去の実際の注文で
答え合わせをする
試すときは、過去3か月ほどの実際の注文から、判断が入った件を10件ほど選びます。新しい担当者は判断表だけを見て判断し、ベテランは判断表を見ずに判断します。2人の答えを並べ、違った件を数えます。
答えが違った件が、判断表の抜けか、条件の書き方の悪さを示しています。件数が少ないうちは、1件ずつ「なぜ違ったか」を2人で話すと、直す行がすぐ見つかります。
過去の実案件を選ぶ手間を減らしたい場合は、生成AIに練習問題を作らせる方法もあります。ただし、判断表から作った問題は判断表の中身しか試せません。表の読み間違いを見つける練習には使えても、表に足りない行を見つけるには実際の注文のほうが確実です。
指示文②:判断表から
練習問題を作る
下の【判断表】を使って、新しく担当になった人が判断表を正しく使えるかを確かめる練習問題を10問作ってください。
# 条件
- 7問は、判断表のどれか1行にはっきり当てはまる場面にする。
- 3問は、2つの行の境目にある場面か、どの行にも当てはまらない場面にする。
- 判断表のどの行も1問以上で試す。数字や会社名を変えただけの、同じ場面の問題を重ねない。
- 問題文には、実際の注文で分かる情報(取引の期間、注文の回数、支払いの遅れの有無、値引きを頼まれた%、在庫の数、納期)だけを書く。
- 実在の会社名・人名は使わない。
- 問題と解答は分けて出力する。解答には、当てはまる判断表のNoと判断を書く。どの行にも当てはまらない問題は「判断表にない」と書き、誰に確認すべきかを書く。
【判断表】
[ここに判断表を貼り付ける]
「判断表にない」と答えるべき問題を混ぜておくと、新しい担当者が無理にどれかの行へ当てはめず、確認先に聞けるかどうかまで確かめられます。
弊社で試したところ、最初の版では在庫の取り合いの問題が、会社名と数量だけを変えて2問出ました。そこで、判断表のどの行も1問以上で試す行を足しています。足したあとの実行では、判断表の4行すべてが問題になり、10問のうち3問が「判断表にない」の解答になりました。
ずれの種類ごとの直し方
答え合わせで違った件は、次の3種類に分けて直します。
| ずれの種類 | 起きていること | 直し方 |
| 当てはまる行がない | 聞き取りで出てこなかった場面 | ベテランにその件の理由を聞き、行を足す |
| 行はあるが、違う判断をした | 条件の書き方が新人には読み取れない | 条件を数字や帳票の項目に置き換える。理由の列を書き足す |
| 2つの行に当てはまった | どちらを優先するかが決まっていない | 優先する行を決め、条件に「D1より優先」のように書く |
直した判断表には、版の番号と更新した日付、確認した人の役職を書いておきます。正式な判断表は共有フォルダなど1か所にだけ置き、更新するのは部門責任者、のように役職で担当を決めておきます。担当者の手元やAIの画面に別の版が残ると、どれが正しいのか分からなくなります。
仕入値や取引条件が変われば、判断の基準も変わります。判断表は作って終わりにせず、半年に1回など見直す時期を決めておきます。

判断表の一部を
仕組みに置き換える
判断表ができると、判断の中には人が考えなくても決まる行があることが見えてきます。ここでは、その行を仕組みへ移す考え方を説明します。
仕組みに移しやすい
行と、人に残す行
判断表の行は、条件が台帳やシステムの数字だけで決まるかどうかで分けられます。
| 行の種類 | 出力の判断表での例 | 置き換え先 |
| 条件がシステムの数字だけで決まる | D3(注文の回数)、D1の権限(値引きが5%超) | 受注入力の時点で注意を出す、部長の承認がないと進めないようにする |
| 数字に加えて、一覧があれば決まる | D2(仕入値が上がった品番) | 担当者の記憶にある品番を一覧にし、見積の画面で目印を出す |
| 相手の事情や会話で決まる | D4(現場が止まるか、納期をずらせるか) | 人が判断する。判断表を見ながら決め、理由を記録に残す |
D2の元になった聞き取りで、担当者は「利益が薄い品番は自分で覚えている」と話していました。判断表を作ると、担当者の記憶にしかない一覧や数字が見つかります。それを台帳に移すことも、属人化の解消です。
D4のように相手の事情で決まる判断は、仕組みにしなくてかまいません。判断表と記録が残っていれば、ベテランが休みの日でも、ほかの社員が同じ考え方で判断できます。
指示文③:判断表をAIに
持たせて相談相手にする
判断表が固まったら、新しい担当者が迷ったときに聞ける相談相手として、AIに判断表を持たせる方法もあります。ChatGPTのプロジェクト、GeminiのGem、Claudeのプロジェクトのように、指示文と資料を保存しておける機能に、次の指示文と判断表を登録します。機能名は2026年10月28日時点のものです。
あなたは[業務名]の判断表を使って、新しい担当者の相談に答える係です。
次のルールを守ってください。
- 答えは下の【判断表】だけを根拠にする。判断表にないことは推測で答えず、
「判断表に当てはまる行がありません。[確認先]に確認してください」と答える。
- 答えるときは、当てはまる判断表のNoと、その行の「理由」を必ず示す。
- 2つ以上の行に当てはまりそうなときは、どちらかを選ぶ前に、決めるために必要な情報を質問する。
- 取引先に送る文面は作らない。値引きの率・納期・取引条件を伝える文は、担当者が自分で書く。
【判断表】
[ここに判断表を貼り付ける]
AIの答えは、判断表をもとにした助言です。取引先に回答する前に、担当者が判断表の行を自分で見て確かめる流れは残します。相談の中で「判断表に当てはまる行がありません」と返った質問は、判断表に足す行の候補として集めておきます。
弊社では、この指示文を2つの版で、同じ3つの相談を使って試しました。最初の版は「取引先に送る文面で、値引きの率や納期を約束する文は作らない」という書き方です。この版は、判断表にない4%の値引きの相談には「営業部長に確認してください」と返し、取引先へのメール文を頼むと断りました。
ただし初回注文の値引きの相談では、頼んでいないのに取引先へ伝える言い回しの例を書き添えました。
そこで、取引先に送る文面を一切作らない書き方に変えたのが上の指示文です。直した版では、3つの相談とも取引先への文面は作らず、担当者が自分で書くように返しました。4%の相談には、その範囲の権限が判断表で決まっていないため営業部長に確認するよう答えています。
一方で、試しに持たせた判断表は担当者が確認する前の版だったため、AIは表にあった「2%までは自分で決めてよい」をそのまま答えに使いました。AIは持たせた判断表の誤りまでは直さないため、登録するのは担当者と部門責任者が確認を終えた版だけにします。
AIに持たせる指示文と判断表の管理も、正式な判断表と同じ部門責任者が受け持ちます。特定の社員のアカウントにだけ登録すると、その人が休めば中身を直せず、属人化が形を変えて残るためです。
判断表を直したら登録した中身も差し替え、指示文の[確認先]には、ベテランが不在の日でも連絡のつく役職を入れます。ほかの社員と共有できる範囲は、サービスと契約の種類で変わります。
社内の質問をAIで受け付ける仕組みを広げたい場合は、有人対応との分け方も含めて社内問い合わせを効率化する方法で説明しています。
受注システムとつなぐ
段階で考えること
D3の注文回数や、D1の「5%を超えたら部長」のような条件を、受注入力の時点で自動的に確かめる形にすると、判断表を見に行く手間そのものがなくなります。ここから先は、販売管理システムの設定や、受注・承認の流れの作り直しになります。
どの行を仕組みにするかは、その判断が月に何回起きるか、間違えたときの損失がどのくらいかで決めます。判断表の行ごとに「月の件数」と「間違えたときに困ること」を書き足しておくと、仕組みにする順番を決めやすくなります。

まず1つの業務で、
直近の3件を聞くところから
属人化の解消にAIを使うときの判断基準は、手順書を作っても残っている「判断」を言葉にできるかどうかです。AIは聞き取りメモを判断表に整え、あいまいな条件を質問として洗い出すところを手伝えます。何を基準にするかを決めるのは、判断してきた担当者と、権限を持つ部門責任者です。
最初の一歩として、点検表で5つほどの業務に点数を付け、「判断が入る」業務を1つ選んでください。担当者に「この1か月で、いつもと違う対応をした件を3つ」聞けば、判断表の1版目を作る材料はそろいます。
判断表ができたあと、どの行を受注や承認の仕組みに組み込むかは、使っているシステムと業務の流れによって変わります。まるっとAIでは、業務の聞き取りから、判断の一部をシステムのチェックに置き換える開発までご相談いただけます。