調剤薬局のAI活用は、薬歴の下書きを電子薬歴の生成AI機能に任せ、薬歴とは別に書く在宅の報告書とトレーシングレポートを指示文で整える、という分け方にすると進めやすくなります。
薬歴は、使っている電子薬歴に音声から下書きを作る機能があれば、まずそれを使い切るのが近道です。そのうえで残りやすいのが、医師・ケアマネジャーに送る在宅訪問の報告書と、処方医に送るトレーシングレポートです。
この記事は、薬剤師の記録と在宅訪問の報告書づくりで閉局後の残業が出ている、数店舗の調剤薬局の経営者・エリアマネージャーに向けて書いています。電子薬歴のAI機能で足りる範囲を表で分け、在宅の報告書とトレーシングレポートの指示文(プロンプト)を、そのまま試せる形で載せます。患者情報の入力ルールは、個人情報保護委員会と厚生労働省の資料に沿って説明します。
服薬指導と疑義照会の判断、調剤した薬の最後の確認(監査)はAIに任せず、薬剤師が行う前提です。記事中の訪問メモや薬剤師の提案は、説明のために弊社が作った架空の例です。指示文は、この架空の例を使って弊社で生成AIに実行させ、出力を確かめてから載せています。特定の薬局の事例ではありません。
この記事で分かること
- 薬歴については、汎用のチャットAIを探す前に、いま使っている電子薬歴の機能を確かめます
- 報告書の文面を生成AIで整える前に、薬局として入力してよい情報の範囲を決めます
- 全店で一度に始めると、どこで手間が減ったのか、どこで問題が起きたのかが分からなくなります
AIに任せる仕事と、
薬剤師に残る仕事を分ける
最初に、調剤薬局の主な仕事を並べ、AIや既製品で減らせる部分と、薬剤師・事務に残る部分を分けます。この記事で詳しく扱うのは、このうち薬歴と報告書づくりです。
仕事ごとに、
減らせる部分と残る部分
同じ「AI活用」でも、使う道具は仕事ごとに違います。処方箋の入力や監査は専用の製品や機器、薬歴は電子薬歴の機能、在庫は在庫管理の機能、報告書の文面は生成AIの指示文、という具合です。
| 仕事 | AIや既製品で減らせる部分 | 薬剤師・事務に残る部分 |
| 処方箋の受付・入力 | 処方箋を読み取って(OCR)レセコンへの入力を補助する製品がある。電子処方箋なら、処方の内容をデータで受け取れる | 読み取った内容が処方箋と合っているかを確かめる |
| 調剤・監査 | 薬の種類や数を画像などで照合し、取り違えに気づきやすくする機器がある | 機器は補助として使い、最後の確認(監査)は薬剤師が行う |
| 薬歴(店頭の服薬指導) | 会話の録音から、SOAP形式の下書きを作る(電子薬歴の機能) | 下書きを読み、聞いていないことが書かれていないか確かめて確定する |
| 在宅訪問の報告書(医師・ケアマネジャー宛て) | 確定した記録の要点を、読み手に合わせた文面に整える | 何を報告し、何を提案するかを決める。宛先と送付の記録を確かめる |
| トレーシングレポート | 伝えたい事実と提案を、医療機関の様式の欄に合わせて整える | 電話にするか文書にするかを決める。評価と提案の中身を決める |
| 在庫・発注 | 使用量の推移から、発注量や動いていない在庫の候補を出す | 店舗間で移すか、返品・廃棄にするかを決める |
| 患者からの電話 | 開局時間や処方箋の送り方など、答えが決まっている用件の回答集を作る | 薬の飲み方・飲み合わせ・体調の相談に答える |
| 患者向けのお知らせ・研修資料 | 患者情報を使わずに下書きを作る | 内容が正しいか、掲示や配布をしてよいかを確かめる |
経営者が最初に見るべきなのは、薬剤師が閉局後に残って書いている書類です。同じ「記録」でも、薬歴と在宅の報告書では、減らす道具も確認する人も違います。書類ごとに分けて時間を測ると、どこから手を付けるかを決めやすくなります。
AIに任せない判断を、
先に決めておく
服薬指導、調剤した薬の最後の確認(監査)、処方に疑わしい点があったときの疑義照会は、薬剤師が判断します。監査を補助する機器を使う場合も、機器の結果は補助として扱います。
疑義照会は、薬剤師法第24条で、処方箋に疑わしい点があれば処方した医師に問い合わせ、確かめた後でなければ調剤してはならないと定められています。調剤した薬についての患者への情報提供と指導も、同法第25条の2に定められた薬剤師の義務です。
AIの出力は、薬剤師が判断するための材料や、判断した内容を文章にする下書きとして使います。AIが出した内容を、薬剤師が確かめないまま患者や医師へ伝える使い方はしません。
薬歴は、電子薬歴の
生成AI機能でどこまで足りるか
薬歴については、汎用のチャットAIを探す前に、いま使っている電子薬歴の機能を確かめます。音声から薬歴の下書きを作る機能は、電子薬歴の販売元が自社製品の機能として提供し始めています。
電子薬歴の
生成AI機能でできること
例えば、クラウド型電子薬歴「Musubi」を提供するカケハシは、2026年5月11日に、服薬指導時の音声から薬歴の下書きを作る「音声薬歴生成機能」を、Musubiの標準機能として全利用ユーザーへ展開すると発表しました。
患者との対話を録音するモードと、薬剤師が自分の考えや判断を録音する「一人語りモード」があり、在宅訪問や施設訪問の後の薬歴作成にも使えると説明しています。
ウィーメックスの「生成AI薬歴入力支援サービス」も、服薬指導の会話をテキストに変えて要約し、SOAP形式で出力するサービスです。生成された薬歴は後から確認・修正でき、薬歴システムに反映できると公式ページに書かれています。
大手チェーンでも、患者との会話からAIが薬歴を作る仕組みを店舗に広げる動きが報じられています(北海道新聞)。
ここで挙げた製品では、AIが作るのは下書きで、薬剤師が確認・修正して確定する前提です。カケハシの発表にも「薬剤師による確認・修正を前提とした下書き作成」と注記があります。製品の比較や料金は、この記事では扱いません。
電子薬歴のAI機能で足りる
範囲と、足りない範囲
切り分けの基準は、その書類が「薬歴」なのか、「薬歴をもとに誰かへ送る文書」なのかです。
| 書類 | 電子薬歴の生成AI機能 | 足りないときに使う手段 |
| 店頭の服薬指導の薬歴(SOAP) | 会話の録音から下書きを作る製品がある。薬剤師が確認・修正して確定する | まず標準の機能を使い切る。汎用のチャットAIに会話を貼らない |
| 在宅訪問の後の薬歴 | 訪問後に薬剤師が話した内容を録音し、下書きにできる製品がある | 録音の手順を店舗でそろえる |
| 処方医への訪問結果の報告書 | 報告書の様式まで作れるかは製品による。販売元に確認する | 確定した薬歴の要点から、指示文で文面を整える |
| ケアマネジャーへの情報提供 | 同上。医師向けとは読み手が違い、言葉を変える作業が残る | 同じ要点から、介護向けの指示文で作る |
| トレーシングレポート | 同上。様式は医療機関ごとに違うことがある | 医療機関の様式の欄に合わせる指示文で整える |
| 患者向けのお知らせ・研修資料 | 対象外 | 患者情報を入れずに、薬局が認めた生成AIで作る |
電子薬歴のAI機能は製品ごとに違い、後から機能が追加されることもあります。「できない」と決めつけず、販売元に様式ごとに確認します。確認しても手で書き直す工程が残るなら、その部分を指示文で減らします。

全店で使う前に、
販売元に確認すること
電子薬歴のAI機能を全店で使う前に、販売元へ次の点を確認しておくと、薬剤師に使い方を説明しやすくなります。
- 録音データの扱い:どこに保存され、いつ消えるか。AIの学習に使われないことが契約で決まっているか
- AIの処理をする事業者:電子薬歴の販売元とは別の事業者が処理していないか。別なら、その事業者との契約関係はどうなっているか
- 患者への説明:録音することを患者にどう伝えるか。ウィーメックスは公式ページのよくある質問で「薬局様の運用ルールにてご対応ください」とし、口頭で聞く方法や施設内の掲示を例に挙げています。あわせて、薬局が院内掲示などで公表している個人情報の利用目的に、録音を薬歴の作成に使うことが含まれているかも確かめます
- 報告書への出力:在宅の報告書やトレーシングレポートの様式に、薬歴の内容を差し込めるか
- 修正の記録:AIの下書きを薬剤師が直した履歴が残るか
同じ5点は、汎用の生成AIで報告書の文面を整える場合にも確かめます。
患者情報をAIに入力する前に
決めること
報告書の文面を生成AIで整える前に、薬局として入力してよい情報の範囲を決めます。
調剤の過程で知った情報は、
要配慮個人情報にあたる
個人情報保護委員会と厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(令和8年4月一部改正)は、薬局も対象です。
要配慮個人情報の例としては、診療や調剤の過程で医療従事者が知り得た、患者の身体状況・病状・治療などの調剤情報を挙げています。要配慮個人情報の取得や個人データの第三者提供には、本人の同意が原則として必要です。
生成AIのサービスに情報を入れることが、業務の委託なのか、本人の同意が要る第三者への提供なのかは、契約の中身を見て判断することになります。委託にあたる場合も、ガイダンスは委託先を必要かつ適切に監督するよう求めています。どちらにあたるかは、契約を確かめたうえで薬局が決め、迷う場合は個人情報保護委員会の相談窓口や顧問の専門家に確認します。
生成AIに患者情報を入れる場合の
公的な注意
個人情報保護委員会の注意喚起
個人情報保護委員会は、2023年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、事業者が個人情報を含む指示文を入力する場合は、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認するよう求めています。
あわせて、本人の同意なく個人データを含む指示文を入力し、そのデータが応答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性がある、という注意も書かれています。そうした入力をする場合は、AIサービスの事業者が個人データを機械学習に利用しないことなどを、十分に確認する必要があります。
厚生労働省のガイドラインとQ&A
薬局は、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」第7.0版の対象となる医療機関等にも含まれます。
令和8年9月のQ&A(企画管理編Q18)は、生成AIの指示文に医療情報を入力する場合について回答しています。ガイドラインは、医療情報を保存する機器が国内法の適用を受けることを確かめるよう求めています。Q18は、入力した医療情報が保存されないことが契約等で担保されていれば、国内法の適用を受けていないサーバも使える、という回答です。
Q18は、保存先のサーバに国内法が適用されるかどうかについての回答で、保存しないサービスでなければ使えない、という意味でも、保存しないと契約で決まっていれば何でも使ってよい、という意味でもありません。同じQ&Aは、クラウドのサービスを選ぶときに、事業者が出すガイドラインへの対応状況の確認表(MDS/SDS)で適合状況を確かめること(Q17)や、認証を取っているかだけでなく、サービスごとの対策と責任の分担を資料で確かめること(Q20)も示しています。
病院薬剤師向けの禁止事項
日本病院薬剤師会の「生成AI利活用ガイダンス」(2026年2月18日版)は病院薬剤師向けですが、薬局で決まりを作るときにも参考になります。
禁止事項として、薬事承認を得ていない生成AIで薬学的判断の支援を行うこと、患者氏名などの個人識別情報の入力、医師・薬剤師などの確認なしにAIの出力を患者へ直接渡すことを挙げています。入力時に患者氏名などを削除・マスクし、医療情報の入力は最小限にすることも示しています。
入力してよい情報を3段階で決める
以上を踏まえ、薬局で扱う情報を3段階に分け、段階ごとに使う道具と、承認する人を決めておきます。
| 段階 | 扱う情報の例 | 使う道具と、薬局で決めること |
| 1. 患者情報が入らない文章 | 患者向けのお知らせ、開局時間の案内、新人向けの手順書、研修資料 | 薬局が利用を認めた生成AI。薬剤師やスタッフの個人のアカウントでは使わない |
| 2. 氏名などを外した報告書の要点 | 訪問メモや確定した薬歴から、氏名・住所・生年月日・医療機関名を外した要点 | 次の3点を契約と事業者の資料で確かめ、薬局が利用を承認した法人向けのサービスだけ。①入力した情報をAIの学習に使わない ②入力した情報を保存しないか。保存する場合は、その期間と、保存先が国内法の適用を受けるサーバであること ③医療情報の安全管理のガイドラインに沿っているか(MDS/SDSなどで確認)。使うのは管理者が承認した薬剤師 |
| 3. 患者を特定できる記録・会話の録音 | 薬歴、氏名と処方内容がそろった記録、服薬指導の録音 | 電子薬歴など、医療機関向けの製品の中で扱う。契約と保存先を確かめ、経営者が承認する |
2段目でも、氏名を外しただけで、誰の話か分からなくなるとは限りません。薬の組み合わせ、訪問日、家族構成がそろうと、地域の医療・介護の関係者には誰のことか分かる場合があります。2段目の情報も要配慮個人情報として扱い、3点を確かめていない無料版などのサービスには入れない、と決めておきます。

在宅訪問の報告書を作る指示文
介護保険の居宅療養管理指導として訪問した後は、薬歴とは別に、処方医への訪問結果の報告と、ケアプランが作成されていればケアマネジャーへの情報提供が求められます。2通を同じ訪問メモから作る指示文を載せます。
医師への報告と
ケアマネジャーへの情報提供は、
読み手が違う
東京都の令和7年度集団指導資料(介護保険の居宅療養管理指導・薬局)は、薬局の薬剤師が医師または歯科医師に報告したうえで、ケアマネジャーにケアプランの作成などに必要な情報を提供することを求めています。
ケアプランが作成されている場合に、ケアマネジャーへの情報提供がなければ算定できないことも示しています(老企第36号第2の6(4)①)。指示を出した医師への訪問結果の情報提供は、文書で行います。
同じ資料は、医師・ケアマネジャーへの情報提供の参考として、厚生労働科学研究班がまとめた「多職種連携推進のための在宅患者訪問薬剤管理指導ガイド」と、その報告様式を挙げています。報告書の様式は、まずこのガイドの様式か、地域や医療機関で決まっている様式に合わせます。医療保険で算定する場合の要件は、最新の点数表と通知で確認してください。
医師に伝えるのは、服薬状況・残薬・体調の変化と、薬剤師の提案です。ケアマネジャーには、薬の飲み方で困っていることと、家族や介護職に頼みたいことを伝えます。同じ訪問でも、2通は言葉と中身を書き分ける必要があります。書き分けに時間がかかる部分を、指示文で減らします。
訪問メモの例(架空)
指示文に貼るのは、訪問中に取ったメモか、確定した薬歴の要点です。氏名・住所・生年月日・医療機関名は、貼る前に外します。この架空のメモでは、薬の名前も伏せて「朝食後の薬」と書いています。
訪問日:10月14日
朝食後の薬:お薬カレンダーに3回分残り(8日・10日・12日の朝)
本人「朝は食べないことがある」
立ち上がるときに少しふらつくと本人。転倒はなし
娘さんが週2回来る。ほかの日はヘルパー(月・水・金の昼)
湿布の残りが多い(2袋)
寝る前の薬はすべて飲めている
便秘の訴えあり。市販の便秘薬を自分で買って飲んでいる(商品名は不明)
【薬剤師の提案】
朝食をとらない日があり、朝食後の薬の飲み忘れが続いているため、服用時点を変更できるかご検討ください。
市販の便秘薬は、次回の訪問時に商品名を確認して報告します。
【ご家族・介護職に頼みたいこと】
ヘルパーの訪問日(月・水・金)の昼に、お薬カレンダーの朝の薬が残っていないかを見てもらいたい。残っていたら薬局に電話してほしい。
2通を作る指示文
次の指示文の【訪問メモ】【薬剤師の提案】【ご家族・介護職に頼みたいこと】に、上のような内容を貼って使います。提案と頼みたいことは、薬剤師が決めた内容だけを書きます。
あなたは保険薬局の薬剤師が書く文書の下書きを手伝います。
次の【訪問メモ】と【薬剤師の提案】をもとに、在宅訪問の報告書の下書きを2通作ってください。
1通目は処方医への報告、2通目は介護支援専門員(ケアマネジャー)への情報提供です。
【守ること】
・【訪問メモ】に書かれていないことは書かない。推測で補わない。
・副作用や病状を断定しない。メモにない「副作用の可能性」などの評価を足さない。
・薬の変更・中止・用量の提案は、【薬剤師の提案】に書かれた内容だけを使う。
・ご家族・介護職へのお願いは、【ご家族・介護職に頼みたいこと】に書かれた内容だけを使う。
・氏名、住所、生年月日、医療機関名は書かず、「患者」「利用者」と書く。
・1通目で、メモに薬の名前がなく「朝食後の薬」のようにしか書けない箇所は、その後ろに「(薬剤名を記入)」と書く。
・医師に連絡や相談を済ませた、医師から返事が来た、とは書かない。
・メモの中で意味が分からない略語や、あいまいな箇所は本文に入れず、最後に「確認が必要な点」として挙げる。
・メモにない項目は空欄にせず「(確認が必要)」と書く。
【1通目:処方医への報告】
次の見出しで、です・ます調、全体で400字以内。
1. 報告の要点(2行以内。最初に結論を書く)
2. 服薬状況と残薬
3. 体調の変化・本人や家族からの訴え
4. 薬剤師の提案(【薬剤師の提案】がなければ「なし」)
5. 次回の訪問予定
【2通目:ケアマネジャーへの情報提供】
医療の専門用語と薬の名前を使わず、介護の計画に関わることを中心に、です・ます調、300字以内。
1. 薬の飲み方で困っていること
2. ご家族・介護職にお願いしたいこと(いつ、誰が、何をするか。【ご家族・介護職に頼みたいこと】がなければ「(確認が必要)」)
3. 薬の保管や受け取りで気になる点
4. 処方医への報告で伝える提案のうち、介護に関わること(「処方医に〜を提案します」と、これから伝える形で書く)
【訪問メモ】
(ここに貼る)
【薬剤師の提案】
(ここに書く。なければ空欄)
【ご家族・介護職に頼みたいこと】
(ここに書く。なければ空欄)
「推測で補わない」「評価を足さない」と書くのは、AIがメモにない内容を書き足すのを防ぐためです。それでも書き足すことはあるため、出力は必ず元のメモと見比べます。
弊社で架空のメモを使って試したところ、最初の版の指示文では、ケアマネジャー宛ての「ご家族・介護職にお願いしたいこと」が「(確認が必要)」のままになりました。訪問メモに、頼みたいことが書かれていなかったためです。AIが推測で埋めなかったのは狙いどおりですが、そのままでは送れません。介護側に頼みたいことは、薬剤師が自分で決めて別の欄に書く形に直しました。
出力の見本と、薬剤師が直す箇所
次は、上の指示文に架空のメモを貼り、2026年10月15日にOpenAIの生成AI(gpt-6-sol)で1回実行した出力です。見出しの記号を【】に置き換え、太字の記号を外して空行を詰めたほかは、文面をそのまま載せています。
弊社は、開発者向けのコマンド操作のツールからこの生成AIを動かしました。薬局で使う法人向けのChatGPT、Microsoft Copilot、Geminiなどでは、同じ指示文でも出力が変わることがあります。使う前に、薬局で使うサービスで架空のメモを貼って試し、出力を確かめてください。
【1通目:処方医への報告】
1. 報告の要点
朝食後の薬(薬剤名を記入)に飲み忘れがあります。服用時点の変更をご検討ください。
2. 服薬状況と残薬
10月14日の訪問時、お薬カレンダーに朝食後の薬(薬剤名を記入)が8日・10日・12日の朝の3回分残っていました。寝る前の薬はすべて飲めています。湿布は2袋残っています。
3. 体調の変化・本人や家族からの訴え
本人は「朝は食べないことがある」と話しています。立ち上がる際に少しふらつくとのことですが、転倒はありません。便秘の訴えがあり、市販の便秘薬を自分で購入して飲んでいます。
4. 薬剤師の提案
朝食をとらない日があり、朝食後の薬(薬剤名を記入)の飲み忘れが続いているため、服用時点を変更できるかご検討ください。市販の便秘薬は次回訪問時に商品名を確認して報告します。
5. 次回の訪問予定
(確認が必要)
【2通目:ケアマネジャーへの情報提供】
1. 薬の飲み方で困っていること
朝食をとらない日があり、朝の薬が8日・10日・12日の3回分残っています。立ち上がる際に少しふらつくとのことですが、転倒はありません。
2. ご家族・介護職にお願いしたいこと
月・水・金の昼に、ヘルパーがお薬カレンダーの朝の薬が残っていないかを見て、残っていたら薬局に電話してください。
3. 薬の保管や受け取りで気になる点
湿布が2袋残っています。保管や受け取りの状況は(確認が必要)です。
4. 処方医への報告で伝える提案のうち、介護に関わること
朝の薬を飲む時間を変更できるか、処方医に提案します。
確認が必要な点: 朝食後の薬の薬剤名、市販の便秘薬の商品名、次回訪問日、薬の保管・受け取りの状況。
出力を読むときは、次の5か所を見ます。一つでも当てはまれば、送る前に薬剤師が直します。
| 見る箇所 | 起こりうる崩れ方の例 | 直し方 |
| メモにない評価 | 「ふらつきは薬の影響の可能性があります」という一文が入る | 削除する。薬の影響を疑うなら、薬剤師が自分の評価として書き足す |
| 言い過ぎ | メモは「便秘の訴え」なのに「便秘が続いています」と書く | 「便秘の訴えがあります」に戻す |
| 提案の出どころ | 【薬剤師の提案】にない処方の変更や、湿布の減量が書かれる | 削除する。提案は薬剤師が決めたものだけにする |
| 宛先の取り違え | ケアマネジャー宛てに、薬の名前や服用時点の細かい話が並ぶ | 介護の計画に関わる内容だけを残す |
| 空欄の埋め方 | 次回の訪問日を推測で埋める | 薬剤師が予定を確かめて書く |
上の実行では、表の5か所にあたる崩れは見つかりませんでした。それでも、送る前に薬剤師が手を入れる箇所が4つあります。
1つ目は、処方医への報告の「(薬剤名を記入)」です。薬の名前がないと、処方医はどの薬についての提案か判断できません。薬剤師が元の記録と照らし合わせて、該当する薬の名前を書き入れます。
2つ目は、ケアマネジャー宛ての4です。「処方医に提案します」と、これから伝える形で出ています。処方医から返事が来た後に送るなら、返事の内容に合わせて薬剤師が書き換えます。指示文を直す前の実行では「医師に相談中です」と出ていましたが、訪問メモには医師に相談したという記録がありません。まだしていない連絡を済んだように書かせないため、「医師に連絡や相談を済ませた、とは書かない」の1行を加えています。
3つ目は、ケアマネジャーへのお願いが「電話してください」という指示の形になっている点です。送る前に「お願いできますでしょうか」のように、相手との関係に合わせて直します。
4つ目は、ふらつきの話がケアマネジャー宛ての「薬の飲み方で困っていること」の欄に入っている点です。介護側に伝えるかどうかと、どの欄に書くかは、薬剤師が決めて直します。
また、指示文を直す前の実行ではケアマネジャー宛てに入っていた便秘の訴えが、直した後の実行では入りませんでした。指示文を少し変えただけでも、AIがメモから何を拾うかは変わります。介護側に伝えるかどうかは、薬剤師が決めて書き足します。
直した後、氏名・日付・宛先と、伏せていた薬の名前は、報告書の様式に薬剤師が書き入れます。東京都の資料が挙げる薬剤服用歴の記載事項には、処方医に提供した訪問結果の要点と、ほかの医療関係職種と共有した情報の要点も含まれています。送った報告書の要点は、薬歴にも残します。

トレーシング
レポートを作る指示文
処方医に送る前に、電話にするか文書にするかを薬剤師が分け、そのうえで医療機関の様式に合わせて文面を整えます。
文書で送る内容と、
電話で伝える内容を分ける
例えば、横浜市立みなと赤十字病院の運用ガイド(がん化学療法の情報提供書)は、「緊急性は低いが、薬物療法を行うに当たり処方医に伝えるのが望ましいと思われる情報(服薬状況、副作用状況等)」が対象です。緊急性のある内容や処方の疑義は、病院へ直接電話するよう求めています。
様式や送り先は、医療機関ごとに決まっていることがあります。同じガイドは、薬局独自の書式での報告も受け付けると書いています。AIに頼む前に、薬剤師が「電話か文書か」と「どの様式で送るか」を決めます。
服薬情報等提供料などの算定は、最新の調剤報酬点数表と通知で確認してください。この記事では算定要件は扱いません。
様式の欄に合わせて整える指示文
トレーシングレポートでは、患者が話したことと、薬剤師が考えたことが混ざると、医師が読み違えます。指示文では、その二つを分けて書かせます。
あなたは保険薬局の薬剤師が処方医に送る、服薬情報提供書(トレーシングレポート)の下書きを手伝います。
次の【伝えたい事実】と【薬剤師の評価と提案】を、【医療機関の様式の欄】に合わせて整えてください。
【守ること】
・最初の1文で、この文書が「報告だけ」か「検討のお願い」かを書く。
・患者が話したこと、薬剤師が確認したことを「事実」の欄に、薬剤師の考えを「評価・提案」の欄に書き、混ぜない。
・【伝えたい事実】にないことは書かない。副作用と断定しない。
・評価と提案は【薬剤師の評価と提案】の内容だけを使う。薬の名前・用量・日数を変えない。
・評価の欄に「〜と考えます」「〜が必要です」などの結びの言葉を足さない。言葉づかいを整えるだけにする。
・急ぎの対応が必要かもしれない記述があれば、下書きの前に「薬剤師が電話での連絡が必要か確認してください」と1行書く。
・氏名、生年月日、患者ID、医療機関名、医師名は書かない(様式に薬剤師が記入する)。
・各欄200字以内、です・ます調。
【医療機関の様式の欄】
(例:報告の分類/患者の状況/薬剤師の評価/提案)
【伝えたい事実】
(ここに貼る)
【薬剤師の評価と提案】
(ここに書く)
入力の例(架空)
【医療機関の様式の欄】
報告の分類/患者の状況/薬剤師の評価/提案
【伝えたい事実】
10月9日の来局時、本人より「夕食後の薬を飲むと、翌朝まで眠気が残る」との訴えあり。
夕食後の薬を、自己判断で週2回ほど飲んでいない。
残薬は夕食後の分が8日分。
他院からの処方なし。市販薬の使用なし。
【薬剤師の評価と提案】
眠気の訴えがあり、夕食後の分に飲まない日がある。
次回の処方時に、夕食後の分の日数を残薬に合わせて調整することをご検討ください。
眠気については、次回の診察時にご確認をお願いします。
この指示文では、評価と提案の中身は薬剤師が書き、AIには文章の並べ替えと言葉づかいの統一だけを任せます。AIに「提案を考えて」と頼むと、薬の変更や用量まで書いてしまう可能性があり、確認の手間がかえって増えます。
弊社でこの入力例を試したところ、最初の版の指示文では、評価の欄に「服用状況を踏まえた対応が必要と考えます」という、入力にない結びの一文が付きました。「結びの言葉を足さない」の1行を加えて再実行し、その一文が消えたことを確かめています。次が、直した指示文で1回実行した出力です(2026年10月15日、gpt-6-sol)。
【報告の分類】
検討のお願いです。
【患者の状況】
10月9日の来局時、ご本人から「夕食後の薬を飲むと、翌朝まで眠気が残る」との訴えがありました。夕食後の薬を自己判断で週2回ほど服用していません。夕食後の分の残薬は8日分です。他院からの処方、市販薬の使用はありません。
【薬剤師の評価】
眠気の訴えがあり、夕食後の分に服用しない日があります。
【提案】
次回の処方時に、夕食後の分の日数を残薬に合わせて調整することをご検討ください。眠気については、次回の診察時にご確認をお願いします。
送る前に薬剤師が確かめること
出力を読み、事実と評価が混ざっていないか、患者の言葉が薬剤師の判断のように書かれていないかを確かめます。上の例なら、「眠気の訴え」が「副作用による眠気」に書き換わっていないかを見ます。
FAXで送る場合は、医療機関名・診療科・医師名を様式に書き入れた後、送信の直前に宛先を確かめ直します。送った内容と日付を薬歴に記録しておくと、医療機関から返事が来たときに照らし合わせられます。

在庫・発注と、患者からの電話
薬歴と報告書の次に、店舗をまたいで手間が出やすいのが在庫と電話です。どちらも、患者の医療情報を使わずに始められる部分があります。
在庫・発注は、
在庫管理の機能と
店舗別の一覧から始める
まず、使っているレセコンや電子薬歴の在庫管理機能に、使用量から発注量を出す機能があるかを確かめます。カケハシの発表でも、AIの活用を在庫管理の領域から進めてきたと書かれています。
数店舗を運営していると、ある店舗で動かない薬が、別の店舗では使われていることがあります。月ごとの使用量・在庫数・使用期限をExcelで店舗別に並べれば、生成AIに「90日以上動いていない薬と、ほかの店舗での使用量」を一覧にしてもらえます。生成AIは一覧の件数や数字を間違えることがあるため、Excelの絞り込み(フィルター)で出した結果と突き合わせてから使います。Excelの在庫表をAIで見る手順は、在庫管理のAI活用で説明しています。
ただし、店舗間で薬を移すか、返品や廃棄にするかは、管理薬剤師が決めます。薬によっては、店舗の間で移すことに法令上の手続きがあるためです。例えば麻薬を薬局の間で譲り渡すには、都道府県の麻薬小売業者間譲渡許可(栃木県の案内)が要ります。許可を受けても、譲り渡せるのは、ほかの薬局が在庫不足で調剤できないときの不足分や、卸から仕入れて90日を過ぎて保管している麻薬など、決められた場合だけです。
電話は、
答えが決まっている用件から
回答集にする
開局時間、処方箋の送り方、薬を受け取れるまでの目安など、答えが決まっている用件は、回答集をAIで作ります。事務スタッフが、どの店舗でも同じ答え方をできるようにするためです。
一方、薬の飲み方、飲み合わせ、体調の変化の相談は、薬剤師が受けます。回答集には「薬や体調の相談は、薬剤師に代わります」と書いておきます。問い合わせ対応のAI活用に、回答集の作り方と、既製品・連携開発の選び方をまとめています。
数店舗の薬局で試す順番
全店で一度に始めると、どこで手間が減ったのか、どこで問題が起きたのかが分からなくなります。1店舗から、次の順で進めます。
① 薬局のAI利用ルールを
1枚にする
3段階の表をもとに、使ってよいサービス、入力してはいけない情報、出力を誰が確認するかを1枚にまとめます。全店の薬剤師と事務スタッフが、同じものを見られるようにしておきます。
② 1店舗で、書類ごとの
時間を1週間測る
閉局後に薬剤師が書いている書類を、薬歴・在宅の報告書・トレーシングレポートに分け、1件にかかる時間と件数を記録します。どの業務からAIにするかの選び方は、業務棚卸し表で比較する優先順位も参考になります。
③ 電子薬歴のAI機能を、
全員が使える状態にする
機能があっても、録音の手順や患者への説明が決まっていなければ使われません。手順を短い手順書にまとめ、新しく入った薬剤師も同じやり方で使えるようにします。手順書の作り方は、生成AIでマニュアル作成で説明しています。
④ 報告書の指示文を、
架空のメモで試してから使う
この記事の訪問メモのような架空のメモで指示文を試し、メモにない言葉が足されないかを確かめます。実際の記録で使うのは、①のルールと、契約と資料を確かめて薬局が承認したサービスが決まってからです。
試した後も、様式への書き写し、FAXの送信、薬歴への記録が店舗ごとの手作業で残ることがあります。その場合は、電子薬歴の出力機能や、店舗をまたぐ仕組みで減らせないかを検討します。
専用の仕組みを作る場合は、誰がどの患者の記録を見られるか、AIの下書きをどこに置くか、送信に失敗したときに誰が気づくかを先に決めます。この3点が決まらないまま作ると、薬剤師の確認の手間が別の形で増えます。

まず、
閉局後に書いている書類を分ける
調剤薬局のAI活用は、薬歴を電子薬歴の生成AI機能に任せ、在宅の報告書とトレーシングレポートを指示文で整える、という分け方から始められます。
判断の基準は二つです。一つは、AIが書いた文に、薬剤師が見聞きしていないことが入っていないかを確かめることです。もう一つは、患者情報を、契約と資料を確かめて薬局が承認したサービスの中で、決めた範囲だけ扱えているかを確かめることです。
まずは1店舗で、閉局後に書いている書類を1週間数え、在宅の報告書の指示文を架空のメモで試します。
そのうえで、様式への書き写しや送付の記録が手作業で残るなら、その工程を仕組みにするかを、電子薬歴の機能と比べて判断します。