飲食店のAI活用は、配膳ロボットのような大きな設備から始めなくても、閉店後や仕込み前の事務仕事から進められます。
個人店や数店舗の店なら、予約電話・メニュー表・仕込み量の見込みの三つを、店の人が確認する形で始めるのが現実的です。
この記事は、営業中に電話へ出られない、外国語メニューを作る時間がない、仕込みが余ったり足りなかったりする、と感じている店主や店長向けです。あわせて、新人への説明の作り方にも触れます。
業務ごとに既製のサービスと生成AIのどちらが合うか、自店向けに書き換えて使える指示文の例、AIに任せてはいけない判断を順に説明します。
記事内の店舗・メニュー・数字は、説明のための架空の設計例です。弊社が店舗で測った導入効果や、特定製品の性能を示すものではありません。
この記事で分かること
- 予約電話の対応は、生成AIを自分で組み合わせるより、予約台帳とつながった既製のサービスを選ぶほうが早く始められます
- AIの下書きにアレルゲンが書かれていても、店主がレシピ台帳と一品ずつ照らし合わせるまでは掲示しません
- まずは店主の判断で仕込みを続け、AIの見込みと実際の出数を横に並べて記録します
飲食店でのAIと人の役割
AIに任せやすいのは、文章の下書き、決まった質問への受け答え、過去の数字の整理です。
一方、料理の味、原材料の確認、予約を受けるかどうかの判断は、店の人が持つ仕事です。
飲食店ドットコムを運営するシンクロ・フードが2025年6月に飲食店ドットコム会員の飲食店経営者・運営者326人へ行った調査では、AIの利用経験がある回答者は26.7%、今後利用したい回答者は39.3%でした(飲食店ドットコム ジャーナル)。
同じ記事には、来客数予測が当たらず利用をやめたという声も載っています。使い始める前に、どの仕事をAIに渡し、どこを人が確かめるかを決めておく必要があります。
業務ごとの向き・不向き
次の表は、小さな店でよく出る業務を、AIの使い方と店が持つ判断に分けたものです。
| 業務 | 合うAIの使い方 | 店が持つ判断 |
| 予約電話・営業時間の問い合わせ | 既製のAI電話やネット予約で、決まった質問に答えて予約台帳へ入れる | 貸切・アレルギー・大人数など、受けるかどうか迷う予約 |
| メニュー表・外国語メニュー | 汎用の生成AIで説明文や翻訳の下書きを作る | 原材料・アレルゲン・価格が台帳と合っているか |
| 仕込み量・来客数の見込み | 売上や予約の記録をExcelで整理し、AIに傾向を出させる | 最終的な仕込み量と、見込みを使い続けるか |
| 新人への説明・店のルール | 店のマニュアルを元に、質問への答えを下書きする | マニュアルにない判断と、衛生・安全に関わる指示 |
| SNS・店頭の告知文 | 日替わりや休業の知らせの文章を下書きする | 価格・日付・提供数が正しいか |
シフト作成もAIで下書きできる業務です。希望休と必要人数の確かめ方はシフト作成の生成AI活用で説明しています。
事務にかかる時間を書き出す
配膳ロボットやセルフオーダーは、店の広さや客席の動線、初期費用と合うかで判断が分かれます。
事務仕事のAI活用は、今あるスマートフォンやパソコンで試せるものが多く、合わなければやめやすいのが利点です。
まず一週間、営業時間外に何の作業へ何分使ったかを書き出します。時間がかかっているのに、毎回同じ手順を繰り返している作業から試します。
個人店の一日の作業
ここでは、架空の店を例に、どの作業がAIの対象になるかを確かめます。
席数30ほどで、ランチとディナーを営業する和食店とします。店主が調理を担当し、ホールは店主の家族とアルバイト2人で回しています。
| 時間帯 | 今の作業 | AIで変わる部分 |
| 仕込み前 | 前日の売上と予約表を見て、仕込み量を店主が決める | 曜日・予約数・過去の出数を並べた見込みを先に用意する |
| ランチ営業中 | 調理中に予約電話が鳴り、手を止めて出る | 営業時間や空席の質問は、AI電話かネット予約が受ける |
| 中休み | 日替わりの告知文と、外国人客向けの説明を書く | メニュー台帳から説明文と翻訳の下書きを作る |
| 閉店後 | 売上を集計し、新人に翌日の注意を伝える | 日報の下書きと、店のルールに沿った説明文を作る |
表にすると、AIが料理や接客を代わるのではなく、店主が営業中や営業後に抱えている「書く・答える・数える」作業を減らすことが分かります。
業務の書き出し方は、業務棚卸し表の使い方も参考になります。
① 予約電話は既製品を選ぶ
予約電話の対応は、生成AIを自分で組み合わせるより、予約台帳とつながった既製のサービスを選ぶほうが早く始められます。
電話の受け答えだけでなく、席の空き確認、二重予約の防止、予約の変更や取り消しまでを一つの流れで扱える製品もあるためです。
選ぶときに確かめる条件
製品の機能や料金は変わるため、候補ごとに公式の説明と見積もりを同じ条件で取ります。
| 確かめること | 理由 | 店で決めておくこと |
| 今の予約台帳やグルメサイトの予約と空席を共有できるか | 電話とネットで同じ席を二重に受けないため | どの予約経路を残し、どれをまとめるか |
| コース・人数・時間帯の条件を設定できるか | 受けられない予約を自動で確定させないため | AIが受けてよい人数とコースの上限 |
| 人へ電話を回す条件を決められるか | 貸切・アレルギー・苦情は店の人が判断するため | 折り返す担当者と、折り返す時間 |
| 通話内容や顧客情報がどこに保存されるか | 名前と電話番号を扱うため | 保存期間と、見られる人の範囲 |
AIに答えさせる
内容を、先に紙に書く
AI電話やチャットを使う場合は、店の情報を登録して答えさせる形が一般的です。
電話でよく聞かれる質問と店の答えを先に書き出すと、設定と確認が早く進みます。次は架空の和食店で登録する内容です。
【AIが答えてよいこと】
・営業時間:ランチ11時30分〜14時(ラストオーダー13時30分)
ディナー17時30分〜22時(ラストオーダー21時15分)
・定休日:月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
・駐車場:店の駐車場はなし。近くのコインパーキングを案内する
・予約:ディナーのみ、1〜8名まで受け付ける
【AIが用件だけ聞き取り、店から折り返すこと】
・9名以上の予約、貸切の相談
・食物アレルギーや食事制限がある方の予約
・料理の持ち込み、誕生日の演出などの相談
・料理や接客へのご意見
【折り返し】
・担当:店主
・時間:14時30分〜16時30分の中休み
書き出すと、AIに任せる範囲と人が受ける範囲の境目が、店の中で共有できます。
AIに予約を確定させない場面
食物アレルギーがある客の予約は、AIが「対応できます」と答えてはいけない場面です。
アレルギー・貸切・大人数・持ち込みの相談は、AIが用件だけ聞き取り、店の人が折り返す設定にします。
問い合わせ対応を、FAQで済ませるか、既製品を入れるか、連携まで作るかの考え方は問い合わせ対応のAI活用で整理しています。

② メニュー表と
外国語メニューは、
台帳から下書きする
メニュー説明や外国語への翻訳は、ChatGPTやGeminiなどの汎用の生成AIで下書きできます。
ただし、AIに料理名だけを渡すと、店で使っていない原材料を推測して書くことがあります。料理ごとの原材料を書いた台帳を先に用意し、その範囲だけで書かせます。
アレルゲンの情報は、
AIに推測させない
外食や、あらかじめ容器包装されずに販売される弁当・惣菜等の店頭での対面販売では、食品表示法によるアレルゲン表示の義務はありません。容器包装された加工食品や添加物は別の扱いです。ただし、堺市は飲食店などに対し、対応できる範囲でアレルゲンの情報提供に取り組むよう求めています(堺市「食物アレルギー表示について」)。
義務がなくても、店が出す情報は台帳と一致させます。AIの下書きにアレルゲンが書かれていても、店主がレシピ台帳と一品ずつ照らし合わせるまでは掲示しません。
メニュー台帳の例
AIへ説明文の材料を渡す表は、次の形で始められます。アレルゲンの確認には主な原材料だけでなく、調味料・加工品の原材料表示と仕入先の資料も照合します。ここでは架空の2品を例にします。
| 料理名 | 主な原材料 | アレルゲン(確認済み/確認中) | 確認した日 |
| 鶏の竜田揚げ定食(1,200円) | 鶏もも肉、しょうゆ、片栗粉、しょうが、米、みそ汁(豆腐・わかめ) | 確認済み:小麦、大豆、鶏肉 | 10月1日 |
| 季節の天ぷらそば(1,100円) | そば、えび、季節の野菜、天ぷら粉、つゆ(しょうゆ・みりん・かつおだし) | 確認済み:そば、えび、小麦、大豆/確認中:卵(天ぷら粉の配合)、季節の野菜(替えるたびに確認) | 10月1日 |
「確認中」と書いた項目は、AIの下書きでもそのまま確認中として残させます。季節の野菜のように中身が替わる料理は、食材を替えた日にその料理を「確認中」へ戻し、確かめ直してから確認した日を書き換えます。台帳が古いままだと、説明文も古いアレルゲンのまま残るためです。
メニュー説明と翻訳の指示文
次の指示文を、台帳の表と一緒に生成AIへ貼り付けます。店名や言語は自店に合わせて書き換えてください。
あなたは飲食店のメニュー表を作る担当です。
下の「メニュー台帳」だけを使って、各料理の説明文を作ってください。
条件:
1. 台帳に書かれていない原材料・調理法・産地を足さないでください。
2. 価格は台帳の数字をそのまま使ってください。
3. アレルゲンは台帳の「確認済み」に書かれたものだけを書き、
「確認中」と書かれたものは「確認中」のまま残してください。
4. 説明文は日本語で40字以内にしてください。
5. 日本語の説明文を、英語・中国語(簡体字)・韓国語に訳してください。
6. 最後に、台帳だけでは書けなかった点を「店に確認すること」として箇条書きにしてください。
出力の形:
料理名/価格/日本語の説明/英語/中国語/韓国語/アレルゲン
メニュー台帳:
(ここに台帳の表を貼り付ける)
指示文は、記事のための設計例です。弊社がこの文面で各AIの出力を測った結果ではありません。
出てきた下書きで確かめること
下書きが出たら、次の三つを店の人が確かめます。
一つ目は、台帳にない言葉が説明文に入っていないかです。「国産」「手打ち」などは、実際にそうでなければ消します。
二つ目は、アレルゲンの欄が台帳と同じかです。三つ目は、外国語の料理名・原材料・アレルゲンの訳が正しいかです。内容を確認できるスタッフや翻訳を確認する担当者に読んでもらい、確認できるまでは外国語でアレルギー対応を断定しません。
「店に確認すること」に挙がった項目を埋めてから、もう一度下書きを作り直します。台帳が育つほど、次の新メニューの下書きは早くなります。レシピとの一致だけで、アレルゲンが混入しないことを保証できるわけではありません。調理器具や揚げ油などを通じた意図しない混入の可能性も店の人が確認し、必要な情報を客に伝えます。

③ 仕込み量の見込みを試す
仕込み量や来客数の見込みにAIを使う場合、最初から見込みどおりに仕込むのは避けます。
まずは店主の判断で仕込みを続け、AIの見込みと実際の出数を横に並べて記録します。
見込みに使う記録
使う記録は、日付、曜日、天気、予約の組数と人数、主要な料理の出数、売り切れた時刻です。
POSレジから出数を書き出せる場合はそれを使い、手書きの伝票しかない場合は、主要な5品だけ数えるところから始めます。
近くの行事や連休など、店主が知っている事情はメモ欄に書きます。AIはその事情を知らないためです。
見込みを出させる指示文
4週間ほど記録がたまったら、Excelの表をそのまま貼り付けて使います。似た条件の日が少ない料理では、見込みの数字を出させません。
下の表は、飲食店の過去4週間の記録です。
列は「日付・曜日・天気・予約組数・予約人数・料理ごとの出数・売り切れ時刻・メモ」です。
明日の条件は次のとおりです。
曜日:金曜日/天気予報:雨/予約:5組14名
近くの行事・連休など:【確認した条件を記入。分からなければ未確認】
似た条件とする基準:【曜日・天気・予約人数の範囲・行事の有無を店主が指定】
1. 主要な料理ごとに、明日の出数の見込みを出してください。
2. 見込みの根拠にした日付と各日の出数を挙げ、見込みを出した計算式を書いてください。上の「似た条件とする基準」に合う日だけを使い、条件を勝手に緩めないでください。
3. 似た条件の日が2日未満しかない料理は、見込みを出さずに
「記録が足りません」と書いてください。
4. 売り切れた日の出数は、実際の注文数より少ない可能性があると注記してください。
記録:
(ここに表を貼り付ける)
指示文の2日という条件は、今回の試行で記録不足なら数字を出させないために設けたものです。2日あれば十分な予測精度が出る、という根拠ではありません。
売り切れた日の出数は、本当はもっと注文があった可能性があります。売り切れ時刻を記録しておくと、見込みが少なめに偏る理由を店主が見分けられます。
見込みと実績を比べる記録表
次の表は、ディナーで出す竜田揚げ定食の見込みを比べた架空の記録です。
| 日付・条件 | AIの見込みと店主の判断 | 実際の出数と気づき |
| 火曜・晴れ・予約2組 | 見込み28食、店主は30食を仕込む | 27食。差は小さい |
| 金曜・雨・予約5組 | 見込み35食、店主は32食を仕込む | 31食。この日は見込みが多めだった |
| 土曜・晴れ・近くで祭り | 見込み30食、店主は40食を仕込む | 39食。行事の記録をAIへ渡していなかった |
この例では、雨の日と行事の日に差が出ています。差が出た条件を書き足していくと、AIの見込みをどこまで信じるかを店主が決められます。
2〜4週間比べても店主の判断より外れが多いなら、その品目では使わないという判断も正解です。
発注や在庫までつなぐ場合
仕込み量が変わると、発注量や必要な在庫も変わります。
ただし、発注まで自動で決めると、見込みが外れたときの損失が大きくなります。発注は、見込みと実績の比較で外れ方が分かってから、品目を絞って検討します。

④ 新人説明は
店の資料から作る
新人からの質問への答えは、店のマニュアルや仕込み手順を元に、生成AIで下書きできます。
例えば「ラストオーダーは何時ですか」「お子さま用の取り皿はどこですか」のような質問に、店の資料から答えを探させます。
資料にない答えは店長へ確認
AIは、資料に書いていないことでも一般的な飲食店の答えを返すことがあります。
そこで、指示文に次の一文を入れます。
下の店舗マニュアルに書かれている内容だけで答えてください。
マニュアルに書かれていない質問には、推測で答えずに
「マニュアルに記載がありません。店長に確認してください」と答えてください。
店舗マニュアル:
(ここにマニュアルの文章を貼り付ける)
質問:
(ここに新人からの質問を書く)
衛生管理、食中毒が疑われるとき、けがや火の扱いについては、AIの答えを使わず、店長が直接伝えます。
マニュアル自体をまだ作っていない場合は、業務メモから手順書を作る方法から始めると、AIに渡す資料も同時にそろいます。
始めたあとにつまずきやすい点
使い始めてから困りやすい点と、確かめる場所をまとめます。
| 困っていること | 確かめること | 直し方 |
| 説明文に、店で使っていない食材や産地が入る | 指示文で台帳以外の情報を禁じているか | 台帳を貼り直し、「台帳にない言葉を足さない」条件を先頭に置く |
| 仕込みの見込みが当たらない | 記録の日数、売り切れ日、行事のメモが足りているか | 外れた日の条件をメモに足し、当たらない品目は見込みの対象から外す |
| 電話とネットで予約が重なる | すべての予約経路が同じ台帳の空席を見ているか | 空席を共有できない経路を減らすか、受付を一つにまとめる |
| スタッフがAIの答えを使わない | 答えの元になったマニュアルが古くないか | マニュアルを先に直し、使う場面を開店前の確認などに絞る |
どの場合も、AIの設定より先に、台帳・記録・マニュアルといった店の元データが正しいかを確かめると、原因を見つけやすくなります。
店主が自分で試せることと、
仕組みづくりが必要なこと
ここまでの使い方は、多くが店主一人でも試せます。一方、店舗が増えたり、複数のサービスをつないだりする段階では、別の準備が必要です。
| やりたいこと | 向いている方法 | 比べる条件 |
| メニュー説明・告知文・新人向けの答えを作る | 汎用の生成AIを店主が使う | 店の情報をどこまで入力してよいか |
| 営業中の予約電話を減らす | 予約台帳とつながる既製のサービス | 今の予約経路と空席を共有できるか |
| 複数店舗の売上・予約・仕込みを一つの表で見る | POSや予約台帳のデータをつなぐ仕組み | 既製品の連携機能で足りるか、データを書き出せるか |
既製品の連携機能で足りるなら、個別に開発する必要はありません。開発を考えるのは、既製品同士がつながらず、毎日同じ転記が残る場合です。
入力してよい情報を先に決める
予約客の名前や電話番号、従業員の個人情報は、まず入力せずに試します。予約の傾向を見るなら、名前と電話番号を消した日時・人数・席の種類だけで足ります。
どうしても個人情報を扱う場合は、入力した内容を学習に使わない設定や契約になっているかに加え、予約を受けたときに伝えた利用目的の範囲に収まるかを確かめます(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」)。個人向けのプランは、有料でも初期設定のままでは学習に使われる場合があります。
入力した内容の扱いは、サービスや契約の種類ごとに違います。使う前に利用規約と設定を確かめ、店で「入力してよい情報」を一枚の紙にまとめておきます。
事務作業を一つ選んで試す
飲食店のAI活用は、料理や接客を任せることではなく、店主が営業の前後に抱えている書く・答える・数える作業を減らすために使います。
最初の一歩は、一週間の事務作業を書き出し、時間がかかる作業を一つ選ぶことです。メニュー表なら台帳づくりから、仕込み量なら記録づけから始めます。
予約・売上・仕込みの記録が別々の場所にあり、毎日の転記が減らない段階になったら、データのつなぎ方を検討する時期です。
まるっとAIでは、今の予約台帳やレジ、Excelの使い方を確認し、既製品で足りる部分とつなぐ必要がある部分を分けて提案します。